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ダンスで身体コントロールを邪魔していた要因:機能的支持基底面

はじめに

前回の記事では「機能的支持基底面」について軽く触れましたが、今回は実体験を含めて説明したいと思います。

※「支持基底面」とは生体工学(バイオメカニクス)という分野など使用されている専門用語です。“たちばな”が支持基底面の機能面を表現する為に作成した造語が「機能的支持基底面」になります。

以前ダンスを学びはじめて1年ほど経過した時に非常に興味深い体験をしました。それが今回のテーマとなる「機能的支持基底面の狭さ」による現象です。

この「機能的支持基底面」という用語は堅苦しい印象がありますが、この点について理解が進むとスポーツやダンス、武道などの上達への大きな手助けとなります。

特に重心移動と直結するのでランニングやフットワークなどの走る能力には直結します。

機能的支持基底面とは?

まずは支持基底面についてです。

支持基底面

身体や身体を支える道具の床面に接している部分の外周により作られる広さ(領域)のこと。この領域の上に重心がある限り安定して立ち続けることができる。

下の画像の赤色で囲まれた領域が支持基底面と言います。杖などを使った場合には右側のイラストのようにその領域は広がります。

この領域の中(上)に身体の重心があると身体はバランスを保ち立ち続けることができます。

下の画像の緑色の線が支持基底面、白と黒色の丸が重心です。姿勢によっては身体の重心は身体の外に出すことができます。姿勢自体は関係なく、身体の重心位置が支持基底面の上にあることによって、安定した状態で態勢を維持することができるのです。

ところが、1mmでもこの領域の外に重心が外れるとそのまま傾いていき、そのまま何もしなければ倒れてしまいます。

機能的支持基底面:“たちばな”の造語

脳内で把握している支持基底面。人によってその領域の広さは異なる。「機能的支持基底面」が実際の支持基底面よりも狭い場合、「機能的支持基底面」よりも外に重心がほんの少しでも外れると、倒れる危険性は無いにも関わらず無意識的に重心を機能的支持基底面内に戻そうとする防御反応が起こる

実際の支持基底面と「機能的支持基底面」が一致するほど身体能力は高くなり防御反応も起こらなくなる。

下の画像の実際の支持基底面が機能的基底面と一致していた場合には赤色の枠が「機能的支持基底面」になります(支持基底面と同じになる)。実際の支持基底面よりも機能的基底面が狭い場合が緑色の丸青色の丸になります。

「機能的支持基底面」とは脳が把握している支持基底面のことを指します。

なので、実際の支持基底面がどれほど広くても「機能的支持基底面」が狭い場合、「機能的支持基底面」を1mmでも重心が外に外れると脳は危険だと判断しなんとかして重心を「機能的支持基底面」の中に戻そうという防御反応(筋肉の反応)が起こります。

実際には「機能的支持基底面」の外に重心が外れても、実際の支持基底面の中にあれば倒れる危険性はありませんが、その際も防御反応は起こり続けているのです。

身体の力みの最大の原因はこの「機能的支持基底面」と「実際の支持基底面」のとの不一致にあります。「機能的支持基底面」から重心が外れた際に起こる強烈な防御反応が過剰に働き、「機能的支持基底面」の中に重心があるにも関わらずに起こってしまっている状態です。

前方に進むのを防御反応が邪魔をする

機能的支持基底面が狭い場合に起こる防御反応は主に2つです。

①身体の緊張の増加
②「機能的支持基底面」内へ重心をとどめようと身体の部位を無意識に動かす作用
①身体の緊張の増加

この状態はバンジージャンプで飛ぼうとした瞬間に突然他者から身体を押された場面を想像していただくとわかりやすいと思います。恐怖心によって全身の筋肉を一気に収縮させ緊張状態を起こします。

「機能的支持基底面」が狭い場合には重心がその範囲を外れて出て行く際にバンジージャンプの条件ほど顕在化はしませんが潜在的に恐怖心を感じており、強烈な防御反応が起こしてしまっているのです。

②「機能的支持基底面」内へ重心をとどめようとする反応が起こる

下の画像はその場で立ち続けるという条件で、上半身を前方に倒した場合にバランスを取るために起こる骨盤の動きとしてみてください。上半身が前方に移動する際に重心も前に行きますがこの骨盤を後ろに移動させることによってバランスを取り重心をその場にとどめることによってその場に立ち続けることができます。

この同様の反応がその場に居続ける状態以外の「歩く」「走る」など移動をする際にも「機能的支持基底面」が狭い人に起こっているのです。

「歩く」とは前方に重心を移動させる行為ですが、防御反応が起こるとできるだけその場(機能的支持基底面内)に重心をとどめておこうと骨盤が完全に無意識に反応し、歩きによる重心の移動を邪魔します。

身体運用系の分野では「ブレーキ&アクセル」と表現することがよくあります。歩くにしても、走るにしても前方に移動する意図を持って動作を行いますが、その意図に反して身体は無意識的な反応で移動する前の位置に身体(重心)を戻そうとする反応を起こすのです。

この重心移動を邪魔する身体の反応を武術では「居着き」「居着いた状態」と言います。実際には武術では身体だけでなく心や思考にも「居着く」と表現するのですが、この防御反応がでると上で述べたように潜在的な恐怖心を感じている状態でもあるので当然心や思考にも身体と同様に悪影響を与えています。

個人的にはあらゆる「居着き」という状態がこの「機能的支持基底面」の狭さによる防御反応で説明がつくように思います。

そして1番の問題点としては幼い頃、もしくは大人に成長するにしたがい徐々にこうした「居着き(狭い「機能的支持基底面」)」身につけている人が大半なのでこのことに気がついている人は通常ほぼいないということです。

気づいていなければ対策は取れないので改善方法が現時点でほぼ存在しないことにつながっています。

幼少期に「機能的支持基底面」を「実際の支持基底面」の広さに近づけるだけで運動能力は格段に向上します。

俗に言う「運動神経」とはこの「機能的支持基底面の広さ」と言い変えることが可能です。

ダンスで身体がコントロールできない体験

今から15年ほど前にトニーティ先生が開発したインターロック・エクササイズの存在を書籍「黒人リズム感の秘密」で知り、身体と動作を学ぶ目的でストリートダンスを学び始めました。

インターロック・エクササイズを毎日最低3時間トレーニングして1年ほど経過した時期のことです。

ダンスのレッスン中に鏡を見ながら動きを確認しているとどうも奇妙な動きをしていることに気がつきました。

それはどのような動きかと言うと、例えばアイソレーションで骨盤を右にズラすと勝手に肋骨が逆方向の左に「ぴょこん」と動きます。骨盤を左にズラすと今度は肋骨が右に「ぴょこん」と動きます。これは意図した動きではなく無意識的に起こります。

アイソレーションでは基本的には骨盤を右に動かしても肋骨はそのままの位置でなければいけません。それがどうしても骨盤と肋骨がカウンターバランス(釣り合い)を取るかのように勝手に動き合うのです。身体が勝手に動いてしまうのでコントロールできない状態でした。

「なんだこれは??」

と当時は真剣に悩みました。ダンスの先生にも質問をしましたが要因はわからないまま。

その後、数ヶ月が過ぎるとそのような勝手に身体がカウンターバランスするような動きは消えていきました。

原因は「機能的支持基底面の狭さ」と「感知力の向上」

最近になり、その無意識的なカウターバランス反応が起こった原因が明確になりました。

原因は、今回のテーマである「機能的支持基底面の狭さ」によるものです。

まさに当時の「機能的支持基底面」は下の画像の緑色の丸の大きさでした。

メカニズムがわかったので、当時どのような奇妙な動きだったかを簡単に疑似体験することができます。

それは

両足を揃えた状態で立ち、骨盤もしくは肋骨のみを左右にズラすアイソレーション動作を行う。

アイソレーションすることができると両足を揃えた場合には、骨盤を動かした際は骨盤とは逆方向に肋骨が動くはずです。

これが奇妙な動きの正体。

足を揃えて立つと実際の支持基底面が狭くなります。その為、重心を支持基底面の中に維持する為に無意識的な反応でカウンターバランスを取るのです。

奇妙な動きが起こった当時は、足を肩幅にした状態でありながら重心を「機能的支持基底面」から移動されることができなかったのでまるで両足を揃えたかのような動きになってしまっていたのです。

元々「機能的支持基底面」があまりにも狭い状態でありながら、ダンスを学び始めた当初では重心や身体の感知能力も低かったので無理やり「機能的支持基底面」から重心を外しても問題なかったのです。

それが、インターロック・エクササイズにより身体の脱力度が向上して身体の自然な動きがで始めたことによって重心や身体の感知能力が高まりました。すると、「機能的支持基底面」から重心を出すと筋緊張が高まるのを直感的に察知して「機能的支持基底面」内に重心をずっと置こうと身体が選択するようになった、と考えられます。

当時では感知能力は高まっても「機能的支持基底面」自体は広くはなっていないので、重心の移動が結果的に以前よりもずっと制限された状態になり、その結果カウンターバランスによる奇妙な動きが出たのではないかと分析しています。

確実にダンスや身体運用は上達していたわけなのでその経過としては必要悪的な反応だったのでしょう。

一種の上達における洗礼だったと言えるのではないかと思います。

「支持基底面」の実際と機能との一致による変化

その後、ロルフィング®︎や忍術的身体操作を学び最近では「機能的支持基底面」が実際の支持基底面の大きさに近づいてきたと思います。

それによって感じた変化は以下の通りです。

①バランスに執着がなくなる
②誰かに押されているかの様に走れる
③全身が柔らかく使えるようになる
④重心移動による運動量が使える

詳細はまた別の記事にしたいと思いますが、こうして自身の身体で体感できると、世の中の天才と呼ばれるトップアスリートやトップダンサーは全員が「機能的支持基底面」と「実際の支持基底面」の広さが一致していることが肌感覚でわかるようになります。

但し、現時点では「機能的支持基底面」の重要性を知る人はごく僅かしかいません。

今後は各個人の「機能的支持基底面の広さ」を客観的に評価できる測定方法を開発していきたいと考えています。

フォースプレートなどの圧センサーなどを活用したら実現可能ではないかと思いますが、測定器具や研究費などの大きな問題があるので大学機関や企業とのコラボが必要となります。

その為にも各機関に興味を持ってもらえるように「機能的支持基底面」という考え方を広めていきたいと考えています。

まとめ

「体幹主導末端操作」「末端主導体幹操作」という動作パターンを改善するトレーニング(主導操作系トレーニング)の開発により、今回のテーマである「機能的支持基底面」の改善を効率的に進めることができるとわかってきました。

この観点の取り組みをするとそれまで練習量や体力的なトレーニングでは全く距離を縮める気配すら持てなかった天才と呼ばれるパフォーマー達に近づける手応えを確実に手に入れることができます。

現時点のスポーツトレーニングの分野では「機能的支持基底面の広さ」や「居着き」などと言った認識は残念ながら持っていません。

ですが、いずれは「機能的支持基底面の改善」「居着きの解消」という認識に必ず到達するでしょう。これは疑いようがありません。

課題としてはこの到達期間を1日でも短縮することです。

かなり微力ではありますが情報を拡散していくことが僕の指名だと思っています。

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