はじめに
高校の野球部時代に2回だけ著しく競技パフォーマンスが高まった経験があります。
各1〜2時間程度の短い時間でしたが、まるで魔法にかかったかのように明らかに野球におけるパフォーマンスが向上したのです。
当時はもちろん、つい最近までなぜこのようなことが起こったのかは不明でした。
今になって思うと、この魔法にかかった時間(マジック・タイム)では腕と体幹が一時的につながり、体幹主導末端操作系の動作パターンになったのではと推定できました。
20年以上前の経験で記憶も曖昧になっていますが、このマジック・タイムが生じた現象やきっかけをご紹介したいと思います。
ライナー性の打球の異常な伸び
マジック・タイムの1回目の経験はバッティング練習で現れました。
高校時代は人生で最も野球のパフォーマンスが低かった時期です。この当時は打球が内野を超えなくなっており、ほぼピッチャーゴロしか打てない状態でした。
指導者から日本式の「上から叩け」という間違った指導方法を受けそれを真に受けてしまい、真剣に上から叩くように素振りを行ったところ、繰り返せば繰り返すほど打てなくなっていったのです。
もともと体幹部が全く使えなかったのでバットをスイングしても全身が使えていないのは感覚として感じていました。
それが、バッティング練習にてマジック・タイムが起こった時には全身の力がバットに伝わっている感覚になったのです。
そして面白いように打球が飛んでいきます。
低いライナー性の打球が異常に伸び、ワンバウンドで網のフェンスを超えたのは覚えています。
この時だけは、バットの芯で捉える率も著しく高まっており、それまでの自分のパフォーマンスからは考えられないような結果がその時には起こっていました。
セカンド送球
2回目のマジック・タイムは練習試合の後に実施した守備練習で起こりました。
当時は打てもしませんでしたが守りもできませんでした。基本は外野を守っていたのですが完全に自己肯定感が無くなった状態で、普通の外野ゴロが取れなくなっていました。
練習試合で3連続で外野ゴロをトンネルし外野をクビになり、キャッチャーに回された時期でした。
キャッチボールで真剣に数球投げただけで肩や腕の筋肉(三角筋や上腕、前腕の筋肉)がパンパンに張るような完全な腕で投げるタイプでした。
また、塁間よりも近い距離での送球ができませんでした。力のコントロールができないからです。
無理やり投げると完全に手先で起きに行った投げ方になるので悪送球の連続という状況。
毎日、ブルペンキャッチャーをしていましたがピッチャーに返球するのも苦手でした。
それがマジック・タイムが起こるとそれまで置きに行くような距離(塁間の半分より近い)でも全身を使って力をセーブしながら投げることができたのです。
何をしても上手く行く感じでした。
盗塁を想定したセカンド送球では思った位置に伸びのあるボールを投げることができました。また、何球投げても筋肉がパンパンに張ってしまうこともなく、非常に気持ち良くプレイできます。
確か練習試合の後だったのでまだ相手チームが居たのですが盗塁を想定したセカンド送球をする度に驚きの声が上がったのを覚えています。
ですが、守備練習後、ブルペンキャッチャーに回った時にどんどんマジック・タイムが解けていくこととなります。
はじめはピッチャーへの返球を気持ちよく快適にできていたのが徐々にいつもの起きにいった投げ方に戻っていくのがわかりました。
そして、ついに完全にマジック・タイムが解けてしまいその後、高校野球ではそのようなパフォーマンスを二度と体験することはありませんでした。
きっかけは一冊の本
高校時代に二度体験したマジック・タイムですがきっかけは▼の「スポーツトレーニングが変わる本」にある野球関係の記事でした。
現在も所有しているのですが1997年の発行になっていますね。
マジック・タイムを発生させたでろうきっかけは本書の手塚一志氏の記事の中の▼のページの内容です。
高校時代はこのような書物を積極的に読んでいました。高校の図書室には昼休みの度に通い、野球の参考になりそうな書籍があったら注文して購入してもらっていました。但し、理解力はかなり低く大学で体育学を学んでからやっと「そういう意味だったのか」と気づいたことが多々あります。
なので、本書も理論的なことはほぼ理解できずにイラストを頼りに見様見真似で「何かの役に立つだろう」とエクササイズを自己流で行なっていたのです。
それを練習時や試合中にふと思い出しバットを持った状態で▼の体幹の動きを反復したことにより、偶然腕と体幹がつながり「体幹主導末端操作」系の動作を一時的にできるようになったのがマジック・タイムが生じた原因だと現在考えています。
▼の解説が端的に表しているような動きが一時的にできたということです。
軸トレーニングWS「脊柱リンク」で紹介したように「体幹主導末端操作」は体幹部の運動量(質量×速度)が伝えることができるような身体の使い方を指します。体幹の形(フォーム)を変えるだけではこの運動量(質量×速度)は発生しないので機能性を発揮しません。
わかりやすく例を出すなら肋骨が振り子のように左右に揺れることによる運動量(質量×速度)が使えないと意味がないのです。
体幹の運動量(質量×速度)が発生させることができれば▼のようなことは簡単に起こります。
それまで自己流で行なっていたエクササイズでは完全に形だけを真似したものだったので体幹の連動による運動量(質量×速度)が発生しなかったので全く野球のパフォーマンスには影響しなかったのです。
ですが、何らかの要素が変わりほぼ偶然レベルで「体幹主導末端操作」の動作パターンが一時的に身についた為にマジック・タイムが発生することになったと個人的には分析しています。
説明がつく
その場で急にパフォーマンスが変わるということは筋力といった体力的な要因でないことは確かです。
「体幹主導末端操作」の視点だと説明がついてしまうのです。体幹の運動量(質量×速度)を活かすことができれば筋力は変わらなくとも打球や送球の勢いは増します。
マジック・タイム後に同じようにエクササイズをしても二度と同じ現象が起きなかったのは形(フォーム)で行い運動量(質量×速度)が生じない動きの反復だった為です。
実際には自己流のエクササイズによって腕と体幹がつながった状態(肩関節の抜きポジション)にもなっていたと思います。手塚一志氏はゼロ・ポジションと表現していますね(概念は少し違いますが)。
終わりに
一応高校までに野球の練習を積み重ねてきたという前提条件がありますが、ちょっとしたきっかけで一時的ではあっても大きく競技パフォーマンスが向上した経験は非常に貴重だと思っています。
「練習で変わったわけではない」という点は非常に面白いのではないでしょうか。
実際のところ、「体幹主導末端操作」「肩関節の抜きポジション」によってマジック・タイムが生じパフォーマンスが向上したかどうかはあくまでも仮説でしかありません。
ですが、セッションやWS、練習会クラスでの経験に照らして分析するとその可能性はかなり高いように感じます。
いつか、機会を見つけて「体幹主導末端操作」「末端主導体幹操作」のトレーニングを実施するだけでスポーツのパフォーマンスが変わるかどうかの検証を行なって見たいと思います。