はじめに
2019.5.7(火)の練習会では「メカニカルな合気上げ」をテーマとして、
⚫︎末端主導体幹操作トレーニング(押し相撲)
⚫︎親指からの崩しとつながりの理解
⚫︎合掌での橈骨と手の関係性
⚫︎メカニカルな合気上げ
を行いました。
“合気”という神経生理学的な反応で崩すことは脇に置いておいて、メカニカル(構造的)に合気上げを結果的に行えるように組み立てました。
一般的に合気上げというと“合気”という点に注目てが集まりますが、実はメカニカルなやり方の方が武術の技としては確実に使えます(“合気”は神経生理学的な反応によるものなので効かない人には全く効かない可能性がある)。
練習会クラスでは初めて技術的な要素を加えた形になりますが、よほど楽しかったようでいつになく盛り上がった練習会クラスとなりました。
合気上げとは?
合気上げとは、相手に手首を抑えられた状態で手首を上げる稽古法です。合気道では呼吸法という名前で呼ばれています。
大東流合気柔術で有名ですが、古流の柔術では呼び名は異なっていても同様の稽古法があります。
▼の動画を参考にして下さい。
「ロルフィング®︎のたちばな」では合気道や合気柔術として行なっているわけではなく、身体の使い方の練習や評価として活用しています。その為、合気上げの行い方は1つではなくいくつものやり方があると考えています。
大切にしているのは「合気上げがたとえできたとしてもそれを他の分野で活かすことができなければ意味が無い」という視点です。
単に合気上げができれば良いということではなく、スポーツやダンスなどに確実に活かせる身体使いを学ぶ為に実施しています。
一般的には「筋力を使わずに」「脱力して」という点が強調されていますが、個人的には腕力で合気上げができることも重要だと考えています。
まず力まかせの合気上げでは同じ体格同士が行った場合にかなり合気上げを行うのは難しいわけですが、力づくで合気上げができた場合は、単なる力づくではなくなるのでその筋力の使い方というのはスポーツやダンスで十分に役立ちます。
末端主導体幹操作トレーニング(押し相撲)
まず練習会クラスで行ったのは末端主導体幹操作の感覚を遊び感覚で身につけることができる「押し相撲」という2人で行うエクササイズです。
末端主導体幹操作
末端(手足)を起点とした動作パターン。末端の動きに引きづられるように体幹をコントロールする。結果的に末端の動きによって身体の重心が移動することになるので一見小手先だけの突きに見えても重心移動による運動量(質量×速度)が発生し、思っている以上の衝撃力を産む。
運動量(質量×速度)の物理現象は「ニュートンのゆりかご」と呼ばれるおもちゃ?がわかりやすいです。運動量保存の法則により「ボールの運動量(質量×速度)」が伝わるのがよくわかります。
「力(質量×加速度)」はそれ自身では伝達しません。力積(力×時間:=運動量)によって運動量に変換されることによって伝達が可能となります。
押し相撲の基本的なやり方は、
⚫︎相手と対面する
⚫︎腕を前習えのよう挙上し肘を90度にする
⚫︎相手に腕を掴んでもらい全力で抵抗してもらう
⚫︎相手を押す
という手順です。
掴む位置によっていくつかの種類があります(今後も増えていくでしょう)。
通常同じような体格同士だとなかなか相手を押せませんが、腕起点の動作パターンで体幹部をコントロールできれば重心移動によって簡単に相手を押し返すことができます。
これは、
重心移動による運動量(質量×速度)という単純な物理的な現象に加えて、人間は力(質量×加速度)には敏感に反応できますが運動量(質量×速度)には反応しづらい性質がある為です。
その為に極力ゆっくり相手を押しても重心が移動するならば押した分だけ相手を押し返すことが可能です。
そして、これは小柄な女性に対して大柄な男性が抵抗を加えたとしても適切に末端主導体幹操作が行うことができれば容易に大柄な男性を押せてしまいます。
押し相撲の面白い点は、力まかせに押すことによって自然に末端主導体幹操作の動きを身につけることができるという点です。
実際に始めは中々相手を押し返せないのですが、ある一瞬相手を簡単に押せてしまうことがあります。そうした体験を積んでいくことによって無意識的に末端主導体幹操作の動きになっていきます。
押す側と抵抗する側の双方ともに何故押せたか?押されたのか?が理解できない点で皆さんびっくりされます。これが「力(質量×加速度)」ではなく「運動量(質量×速度)」による体験です。
「力(質量×加速度)」で押された感触と「運動量(質量×速度)」で押された感触は全く違います。「運動量(質量×速度)」は全身の重心が移動した場合かなり大きなものとなることと、人間が感知しづらい性質が相まって全く抵抗することができない感触となります。
これは抵抗する側が真剣になればなるほどこの体験が味わえます。
この「押し相撲」は真剣に行えば行うほど体力を消耗します。そこで、途中に休憩の時間を取ったのですが、よほどこの「押し相撲」が楽しかったのか誰も休みません(笑)
ずっとこの「押し相撲」を行なっていました。
基本的にやればやるだけ末端主導体幹操作の感覚が身につきますからそれが楽しく、面白かったのだと思います。
腕力で手首が持ち上がる
「押し相撲」の評価方法として合気上げを随時行いました。
合気上げの説明はほとんど行わずに、基本的にお互いに腕力で行ってもらいました。すると、始めは全く手首を持ち上げることができなかったのが「押し相撲」をトレーニングした後はかなり簡単に上がってしまいます。
感覚としては前腕の骨(橈骨)で持ち上げられた感触。
これが「骨を使う」ということです。
姑息な技術(笑)を使わなくとも腕力でひとまず皆さん合気上げができてしまいました。
これも楽しまれていました。
合掌トレーニング
土台がある程度できたのでここから技術的な要素に入っていきました。
今回の合気上げのやり方は、前腕の骨(橈骨)を相手の親指にコンタクトさせ前腕vs親指の関係にして行うやり方です。
▼水色の部位が橈骨
この前腕vs親指の関係にしてしまえば相手が多少体格で優っていたとしても力感無く合気上げができます。
理論的には相手の親指が自身の前腕の太さがない限りではできるのではないでしょうか?
このやり方は大学時代に雑誌かネットに書かれていたので知識としては知っていましたが、行うことはできませんでした。
それは、このやり方をするには
前腕と手のコントロールが必要
だからです。
これが思っている以上に難易度が高いのです。
前腕の骨(橈骨)を相手の親指にかけても手のポジションがそのままだと手の甲で相手の手を持ち上げる形になるので全く意味が無くなります。
前腕の骨で相手の親指をピンポイントで持ち上げる必要があり、それに前腕と手のコントロールが必要になるのです。そして、これが難しい。
そこでこの身体操作を疑似体験する方法はないかと試行錯誤した結果、昔に購入した合気上げのビデオの中にあったやり方を思い出しました。
それが「合掌」です。
手のひら同士をくっつけた合掌の形にしてから相手に両手首を掴んでもらいます。
そして、合気上げをすると簡単に手首を持ち上げることができるのですが、この時に自然と自身の前腕の骨(橈骨)が相手の親指にピンポイントにかかることになり意図せずに前腕vs親指の形にすることができます。
ビデオを購入した当時は「わざわざ合掌にしなければできないのなら全く合気道で使えないし、応用も効かない」と思ったものでした。
ですが、合掌をすれば自然に前腕と手のコントロールができるというのは合掌を活用してトレーニングすれば、合掌の形にしなくともその前腕と手のコントロールができるのではと思いついてトレーニングを考案したところ、実際に上手くいってしまいました。
前腕と手のコントロールは一種の技術的なことなので1回の練習会クラスで習得するということは難しいのですが、方向性が定まるということはかなりのメリットがあります。
練習会クラスにて、合掌を活用したトレーニングを行うとある程度の動きが学習できますから、あとは少しの補助を加えると見事に前腕vs親指の状態にすることができました。
この状態にできればそのまま手首を持ち上げてもよいですし、合気道的な技につなげるなら相手の親指を通して相手の体幹を崩すところまでおこないます。
ひとまず今回の練習会クラスでは前者まで実施し、後者は説明とデモだけ行いました。
親指のつながり
この前腕vs親指での合気上げのやり方自体が実は末端主導体幹操作の動作パターンになります。
これは行う側も受ける側両方ともです。
相手の親指をある方向にひっぱると肘や肩が持ち上がり、構造的な親指と肩までのつながりがあることがわかります。
要はこのつながりを合気上げを行う側は自身の身体で相手を崩す為に活用し、受ける側に対してはこのつながりによって崩れやすくなります。
適切に前腕の骨(橈骨)で相手の親ゆびとつながることができれば、後は持ち上げるのも相手を左右に崩すのも簡単です。
つまりはこの前腕vs親指の合気上げができれば当然末端主導体幹操作が身につきますしが、合気上げを受けることによっても末端主導体幹操作が身につくということになります。
合気道や大東流合気柔術などの古流の柔術ではこうした稽古によって末端主導体幹操作の動作パターンを磨いていったと推定すると非常に面白いのではと思います。
少なくともこの種の合気上げを練習した練習会クラスの参加者全員が末端主導体幹操作の動きができてしまいました。
キックミットへの突きで確認を行いましたが、全員重心の移動による運動量(質量×速度)を無意識に使えるようになったので浸透するような突きになっていました。
当身が自然に身につく稽古
合気道では実戦では「当身7割、投げ(関節技)3割」という教えがあります。
但し、昭和の時代はわかりませんが、現在の合気道の稽古の中には当身(突き)の稽古は存在しないのではないでしょうか?
大学時代にこの点に関して不思議に思っていましたが、末端主導体幹操作の考えや今回の練習会クラスでの身体の変化を見ると、合気道の技を稽古すれば自然に当身(突き)の能力は養うことは可能だと感じます。
逆に言えば、熱心に稽古していたとしても当身(突き)の能力が養われない場合には稽古の方向性がずれている可能性があるということです。
当然、当身(突き)の威力だけでは実戦では使えません。当てる技術は別に稽古する必要があるかもしれません。
但し、これも入身が適切にできるならばある程度当てることが可能になりそうな気はします。
パンチングミットやサンドバッグを突いて衝撃力があるのか、入身で相手を自由に突ける位置にポジショニングできるか、といったことが合気道の稽古の評価として使えるかもしれません。
前腕と手のコントロールは施術力も高める
今回ご紹介した前腕の骨(橈骨)で相手の親指を捉える合気上げのやり方ができるということは、前腕と手のコントロール能力が高まったことを表しています。
この能力を施術に活用すればそれだけでテクニックのジャンル問わずに、施術力を高めることにつながります。
おそらくは努力感が一切ないので自分自身では気付きにくいと思いますが、施術を受けるクライアントさんが敏感に察知されますね。
終わりに
合気上げに関してはかなり思入れがあります。
大学の合気道部に所属していたこともあってかなり試行錯誤した経験がありましたが、それから20年以上経過してやっと形になってきました。
相手の親指に自身の前腕の骨(橈骨)をひっかけると相手を構造的に崩すことが可能になります。
構造的なので多少体格差があっても崩せます。そして、相手を自由に誘導もできるので色々な技に持って行きやすくなります。
この感覚を土台にすれば合気道の技の大半は習得しやすくなると思います。
今後の練習会クラスでは合気道の技を取り入れるのも一つのプランとしてはありだと考えています。
また、今回は親指をターゲットにして相手を崩しましたがこの感覚は親指に限定されたものではなさそうです。
社交ダンス(競技ダンス)のようにペアになって踊るダンスでは手のひら同士でパートナーと接触しますが、この皮膚を誘導することも可能だと思われます。
親指は明確に他の指と別れているので指と体幹とのつながりを体感するのは1番簡単な部位だと思われます。親指から体幹のつながりによって相手を崩すもしくは誘導する練習をすることで手のひらといった部位でも可能にできるでしょう。
色々と応用は広がりますね。
練習会クラスは参加者がいる限り実施する予定です。練習会クラスにご興味ある方は▲のセミナー/イベント情報よりご確認下さい。