はじめに
「ロルフィングのたちばな」では人間の脳神経系の運動プログラムには4つのパターンが存在し、そのパターンを利用して身体を改善させていく【4つの支持軸理論】を提唱しています。
音楽にも4つの支持軸タイプが存在することがわかってきました。
曲を聞く際に同じタイプの支持軸だと身体が【統合化】しパフォーマンスを発揮しやすい状態となります。
逆に異なった支持軸では身体が弱体化する【分散化】という状態になり、パフォーマンスが低下します。
音楽にも「4つの支持軸タイプ」が存在すると考えると、その音楽の支持軸と自身の支持軸を一致させることによってダンスのリズムの取り方やムーブなどを効率的に習得できる可能性が出てきます。
これはダンスにとどまらず演奏やスポーツの上達率を高め、文化の解明にもつながっていきます。
今回は音楽についての「4つの支持軸タイプ」についてご紹介したいと思います。
音楽のYouTubeのリンクを貼っているので聴き比べてみてください。
「分散化」と「統合化」
まず前提となるのは身体の「分散化」と「統合化」という状態です。
支持軸にと相性の悪い動作などを行うことで「分散化」になり、逆に相性の良い動作などを行うと「統合化」します。
音楽を聞いてこの「分散化」と「統合化」の身体の状態を判別することで音楽の「4つの支持軸タイプ」を判定することができます。
代表的な音楽とダンス
1軸タイプの音楽:盆踊り
2軸タイプの音楽:フラダンス
3軸タイプの音楽:サンバ
4軸タイプの音楽:ソール、ファンク
これらの伝統的なダンスのムーブ(動作)は音楽の支持軸タイプに一致しています。
必ずしも他の支持軸で踊れないということではありませんが、一致した支持軸で踊ることで1番ダンスが馴染み、習得も早いと考えられます。
合気上げテスト
音楽と身体の関係を体感する方法として「合気上げ」というものがあります。
合気上げとは相手に両手首を掴んで抵抗してもらった状態で肘を曲げて手首を持ち上げる動作です(▼画像参照)。
この合気上げを立位の状態で、音楽に意識を向けながら腕力を使って行います。
自身の支持軸と音楽の支持軸が一致すると意外にも簡単に上がったり、力強く行うことができます。
逆に、一致していないと力が入りづらくなります。
問題点としては相手と自身の支持軸が同じだと音楽を聴いてもお互いに強化されたり、弱体化して違いが出ない可能性がある点です😅
足半草履やゴムなどで支持軸を変える方法をご存知の方は支持軸を意図的に変えながら試してみてください。
支持軸を一致させると効果が高まる
「ロルフィングのたちばな」では聴覚系の認知特性トレーニング(音軸)というワークを行なっています。
音軸を行うと全身が均質化し脱力が深まります。その結果、他者に触れられた状態で「ダラ〜」っと力を抜くと触れている相手の力を抜くことが可能になります(これができた身体の状態を「音軸」と呼んでいます)。
これまでは適当に選んだ曲を使って音軸のワークを行なっていました。
ですが、クライアントさんの支持軸と曲の支持軸を一致させてみたら違いが生じるのかを確認してみたところ明らかに支持軸を一致させた場合の方が効果が高まるという結果となりました。
ダンス、スポーツへの応用
「音楽の支持軸タイプ」という考え方をダンスやスポーツに応用することでこれらの技能を効率的に習得することが可能になります。
ダンスは音楽と密接な関係があります。
上記に挙げたような伝統的なダンスでは使用する音楽の支持軸タイプと自身の支持軸を一致させることで
・リズム
・ムーブ
・音の取り方
を効率的に習得することが可能になります。
スポーツのプレイスタイルにも支持軸タイプが存在します。
スポーツと音楽との関係は薄いように感じますが練習に音楽を使うことによって非常に役立ちます。
憧れの選手がおりその選手のプレイスタイルを習得したいと考えた場合にはその選手と同じ支持軸になる必要があります。
その際にその支持軸タイプの音楽を聴き、その音楽のリズムを掴むことで憧れの選手のプレイスタイルを習得しやすくなります。
理想を言えば目的とする支持軸タイプのダンスをインプロビゼーション(即興で踊る)できるようにすると良いと思います。
ライブで曲の支持軸を分析してみた
ロルフィングや身体の使い方の学びのためにアイドルやバンドのライブに通っています。
最近では参加したライブのグループの曲の支持軸タイプをチェックし、その支持軸になることを試しています。
すると下記のようなことがわかってきました。
伝統的な音楽は特定の支持軸タイプのみになりますが現代のアーティストの曲はあらゆる支持軸タイプの曲があるようです。
また、同じ曲でもアレンジによって支持軸タイプは変わります。
なので曲の支持軸タイプはリズムや楽器の演奏などの表現の違いによって変わることが考えられます。
アレンジした曲調の支持軸タイプになる
アニメ「エヴァンゲリオン」の主題歌である「残酷な天使のテーゼ」を例にしてアレンジした曲の支持軸タイプを載せたいと思います。
原曲は4軸タイプです。
ですが、▼クラシックにアレンジされると2軸タイプになります(クラシックは2軸タイプ)。
▼ピアノ演奏も2軸タイプ
▼ハウス(音楽のみです)にアレンジされると3軸タイプになります(ハウスは3軸タイプ)。
▼盆踊りはやはり1軸タイプになります(盆踊りは1軸タイプ)
このようにわかりやすいアレンジはそのジャンルの支持軸タイプと一致するようです。
J-POPでの支持軸タイプ
J-POPの曲の例としてばってん少女隊の各支持軸タイプの曲を挙げてみます。
1軸タイプ:【OiSa】
音楽の知識がないので説明できませんが、なんとなく感覚で地面に向かって「ドン、ドン」とビートが届く感じでしょうか。
2軸タイプ:【ハカタダンスホールベイベー】
曲の支持軸タイプを分析してわかったのですが基本的に2軸タイプの曲は個人的に音が取れずにノリずらい曲が多いようです。
これは自分自身4軸タイプのストリート系ダンスしか踊ってきていないことが考えられます。
この曲も例に漏れず「ダンス」という名称がついていながらライブで個人的に音が取れないことが多いです(テンションが上がったりすると自然に音が身体に入ってきます)。
3軸タイプ:【YOIMIYA】
EDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)的な電子音系は3軸タイプが多いようです(今のところ全て)。
4軸タイプ:【わたし、恋始めたってよ!】
4軸タイプの曲は個人的に1番ノリやすいです。ストリートダンスを学んでいた時期があるからだと思います。
なので2軸タイプのダンスを学ぶと2軸タイプの曲でもノリやすくなるかもしれません。
ライブ会場のスペースが狭いというのもあるかと思いますが。
音楽が文化を決めるか?
各支持軸タイプの曲を聴いてダンスで表現しようとすると下記のようになります。
❶1軸タイプ:上下の起伏がない、反動動作がない
▶︎日本舞踊、阿波踊り
❷2軸タイプ:アイソレーション
▶︎ポッピング、インド舞踊、フラダンス
❸3軸タイプ:アップのリズム。胸が上空に引き上げられる
▶︎ハウス、社交ダンス:ラテン系
❹4軸タイプ:身体のバネを使った表現
▶︎ソウル、ロッキング
これはそのままその支持軸タイプのダンスの表現(動き)になります。
このように考えると音楽を基点にして、動きが起こり、動きやすい服装になるなど文化につながっていくと考えられます。
現在のような情報化社会では多文化を知ることができますが、それ以前ではそのコミュニティ内で文化を醸成させてきたと考えられます。
すると、音楽を基点にして様々な風習ができた過程なども説明がつくようになるかもしれません。
支持軸タイプの異なる組み合わせ
ポッピングダンスの原型となっているBOOGALOO(ブーガルー)ですが、このオリジネーターは2軸タイプの曲で身体は4軸で表現しています。
粘りのあるムーブですね。
現在ではブーガルーを踊るダンサーは少なく、2軸タイプのポッピングを踊るダンサーが多い印象がありますが、人間は「音楽に一致した表現を好む」と考えると面白いです。
エンターティメントとして考えるとすると、こうした一般的な傾向から脱し、意図的に支持軸の不一致の組み合わせをすることでオリジナリティを出せるとも言えます。
基本的な考え方としては、
「コンテストは支持軸タイプの一致、エンターティメントは支持軸タイプの不一致」
が戦略的に適していると言えそうです。
身体の「分散化」の問題点
身体と音楽の支持軸タイプの不一致を考えた場合に思い当たるのが上記での身体の「分散化」する問題です。
おそらくですが実際のパフォーマンス中には「分散化」にはなかなかならないのではないかと考えています。
草履を履くと1軸になるのですが、3軸のクライアントさんが草履を履き踊っている動画を見せていただいたことがあります。
その動画での支持軸をチェックしてみましたが3軸のままでした。
また▼動画の鼻緒のあるサンダルを履いている男の子に注目です。
▼このケースでも通常は「1軸」になるのですが分析すると「4軸」でした。
色々な要素が考えられますが元々の支持軸の影響力は思っている以上に大きいのかもしれません。
支持軸を恒常的に変える手法がありますが、ある一定の割合で支持軸が元に戻ってしまう方が居られます。
変更した支持軸が機能する動作をトレーニングすると定着するようなので、上記の動画の男の子に1軸のトレーニングをしてもらうと結果は変わる可能性があります。
現時点ではセッションにおいては「支持軸」が変わらなかった事例はありません。
「非日常な場面(セッションなど)」と日常的な場面(慣れ親しんだ環境での動作)では使用する神経回路が変わる可能性があるのかもしれませんね。
英語論文化の目的
「4つの支持軸理論」を論文化、さらに「英語での論文化を実現したい」思うに至ったのはこの
「音楽の4つの支持軸タイプ」
の存在を発見したことはかなり大きいです。
今後はおそらく言語や心理、思考にも影響を与えていることがわかってくるでしょう。
日本語の論文は日本でしか通用しませんが、英語で論文化することにより世界中から論文を見つけてもらえる可能性が高くなります。
個人的には、身体系の分野に関わらずあらゆる人間が関与する分野において「4つの支持軸理論」の考えが生かされた研究がされるのを望みます。
終わりに
ロルフィングは元々「筋膜」へのアプローチとしてできましたが最近では「知覚」系の技法も開発されています。
「ロルフィングのたちばな」では「知覚 」からさらに一歩踏み込んだ「認知」へのアプローチを開発しています。
「音軸(聴覚系認知特性トレーニング)」はその認知へのアプローチの1つですが今後さらなる発展がありそうです。
少なくとも自身の支持軸と一致した音楽を動作トレーニングに活かすことで、それまでできなかった領域の能力を高めることにつながりますね。