はじめに
個人的に大きく影響を受けた書籍の1冊として
スーパーボディを読む
があります。
これは(故)伊藤昇氏の著作で胴体力トレーニングを世に広めた1冊です。
この1冊を知ったのは大学1年の冬休みの帰省時に入った書店でだったと思います。
内容としてはトップアスリートやトップダンサーの身体操作について分析しており、基本的な胴体力トレーニングが紹介されていました。
掲載されているエクササイズ数が少ないこと、シンプルな動きに他の身体系メソッドにない魅力を感じたことを覚えています。
その後に関連書籍
伊藤式胴体トレーニング「胴体力」入門
も出版されました。
現在では胴体力トレーニングを知ってから20年以上経過しましたが最後まで謎だったのが「股間節の捉え」でした。
「股関節の捉え」の状態がわからない
上記の2冊にも「股関節の捉え」についての記述があります。
但し、全く再現できるようなものではありませんでした。
股関節は確かに重要な部位だとは分かりますが、「股関節の捉え」ができた状態とできていない状態の判別がわからなかったのです。
股関節周りの動作トレーニングをすれば感覚的な変化が生じます。多少動きも良くなります。但し、それが「股関節の捉え」なのかは確証がありません。
伊藤昇氏が亡くなってから胴体力トレーニングが指導されている飛龍会の「股関節の捉え」をテーマとしたWSに参加したこともあります。
ですが、残念ながらWSでは淡々と胴体力トレーニングのエクササイズが行われるだけで、
⚫︎「股関節の捉え」とはどのような状態なのか?
⚫︎「股関節の捉え」が身につくとどのようなことができるようになるのか?
などの期待していたような説明は全く聞けませんでした。
こうしたことから胴体力トレーニングの体系には「股関節の捉え」がどの程度身についているのかの評価方法は無いと推定されました。
また、WSを受けて「股関節の捉え」をイメージさせる感覚や動作の違いが少しでも体験できればよかったのですがそうしたこともありませんでした。
こうしたことから伊藤昇氏が提唱した「股関節の捉え」はどういった状態なのかは失われてしまったと考えられます。
主観の問題点
伊藤昇氏から直接学ばれた方にはもちろん「股関節の捉え」を身につけた方が居られるでしょう。但し、それが本当に「股間節の捉え」なのかを判定する評価がなければ判断することは難しいのが現状です。
特に個人的な考えとしては「股関節の捉え」の存在の有無にはほぼ関心がなく、自分の身体の改善を進めることに大きな興味があります。
言い換えれば
⚫︎「股関節の捉え」が現状できているのかを確認する方法
⚫︎「股関節の捉え」を再現性高く身につけるトレーニング方法
を知りたいという欲求がありました。
この欲求は、やはり主観的な感覚に頼るだけでは満たすことができません。
この主観は、
⚫︎生前の伊藤昇氏に認められた(伊藤昇氏の主観)
⚫︎自身の「股関節の捉え」の感覚
です。
胴体力トレーニングは身体系の世界ではかなり大きな影響を与えているように感じます。実際にネットを検索すると「胴体力トレーニング」やその関連用語を多くの人が使用しています(胴体力トレーニングを本でしか学んでいない人も多数含まれます)。
動画を投稿している人も多くいますが、身体のレベルはまちまちで「股関節の捉え」という用語を使用している人でも地面とのつながりを全く感じない人も(これも僕の主観です)ちらほら見受けられます。
こうした観点から「ロルフィングのたちばな」の「股関節の捉え」とはこのような状態では無いのかという仮説を誰でも体験できる体系を作りたいと研究を進めています。
要点としては、
⚫︎誰でもその場で体験できるエクササイズの開発
⚫︎評価方法の開発
です。
誰でも体験・実感できる方法
股関節の抜きポジション
「股関節の抜きポジション(股関節抜き)」は骨格構造的に骨盤から地面のつながりを通すものです。
基本的には一回の動作で股関節と地面とのつながりを作ることができます。
トレーニングとしてはこの「股関節の抜きポジション」を繰り返すことによって身体への定着度が進みます。
始めてこの「股関節の抜きポジション」を行う方でも3〜10回動作を繰り返すだけで明確に股関節と地面とのつながりを感覚として実感できます。
セッションでご紹介すると大抵のクライアントさんは驚きの声を上げられます。
上記で否定的に語った「主観」ですが、その場で短時間に股関節と地面とのつながりが誰もが実感できることはメリットだと考えています。
多くの身体系のメソッドの問題点として時間や回数、期間を多く行う「量質転換」を念頭にした指導が行われていますが、この「量質転換」の考えだと最悪の場合に20年間トレーニングを継続してきたのに全く身体の改善ができない場合が考えられます。
そして実際にそのような事例が多数存在すると個人的には考えています。
「量質転換」の1番の問題は目指す身体の状態を認識できていない点にあります。
つまり、目的地がどこかわからない状態なのでどんなに労力と時間を費やしても目的地になかなか辿り着けないことになります。
身体系で重要視されている「脱力」も同じ問題を抱えています。
実際に「脱力」という用語を使用しても多数の「脱力」した状態が存在するので、スポーツやダンス、日常のパフォーマンス向上につながらない腑抜けた状態を「脱力」と解釈してしまい多くの人は失敗しています(自分自身もこの過程を辿ってきました💦)。
この「股関節の抜きポジション」は「軸トレーニング」「骨力体」のメニューにて必要に応じてご紹介しています。
骨力体:テーマ股関節
「骨力体」とはマッサージガンとエクササイズを組み合わせたセッションの名称になり、骨を使うことを目的としています。
「骨力体」には現在レベル1〜11の段階があり、各レベルごとに6つのテーマ(1つのテーマに3セッション実施)が存在します。
レベル1では股関節A、Bの2つのテーマがありますが、この股関節A、Bを受けることによって「股関節の抜きポジション」とはまた違った効果を発揮します(「骨力体」のレベルを上げていくと「股関節の抜きポジション」自体を活用した応用的なテーマがいくつか存在しています)。
「股関節の抜きポジション」は骨格構造の視点から股関節と地面とのつながりを作るものでしたが、この「骨力体」では骨を直接的に使うことによって股関節と地面とのつながりを作っていきます。
一回の「骨力体」のセッションのエクササイズでは【2分×5セット】で行っていきます。
1つのテーマにつき3セッション行っているのですが1セッションでも明確に股関節と地面とのつながりが現れてきます。
こうしたエクササイズはエクササイズ直後は変化を感じたとしても翌日には効果がなくなってしまうことが多いのですが「骨力体」の手順(プロトコル)で行うことによってエクササイズの効果は確実に定着するのが「骨力体」の大きな特徴です。
今年の1月に1ヶ月間かけて「骨力体」計72セッション(レベル3まで)を受けられた方がおられますが、効果が積み重なっていき劇的に身体が変わってしまいました。
20年以上身体や動作の探求を継続してきましたがこのように定着率の高い方法は目にしたことがありません。
実は、「骨力体」の上肢をテーマにしたセッションを行っても股関節と地面のつながりがより通ってしまいます。こうした現象を見ると「全身はつながっている」と毎回感じます。
「骨力体」のセッションをしていると「股関節の捉え」という概念を使う必要がなくなる印象にもなります。
なぜなら「股関節の捉え」が股関節と地面とのつながりだとするとそれが当たり前になってしまうからです。
股関節をテーマにした「骨力体」はレベル1の②(4〜6回目)と④(10〜12回目)のテーマで提供させていただいています。
骨力体【レベル1のテーマ】
①鎖骨
②股関節A
③肩甲骨
④股間節B
⑤脊柱A
⑥脊柱B
評価方法
「ロルフィングのたちばな」で行っている股関節が使えているかの評価です。
レベル1:合気上げ
合気上げは基本的に身体操作能力の評価として「ロルフィングのたちばな」では頻繁に使用しています。
合気上げ方法
①パートナーに両手首を押さえてもらう
②腕力で手首を上方に持ち上げる
股関節で地面とつながっている身体になっていればパートナーを簡単に崩すことができます。
合気上げはさまざまなやり方がありますが、重要なことは「腕力」つまり「力づく」で行うという点です。
股関節と地面がつながっていれば、地面からの反力によって容易にパートナーを身体ごと崩すことが可能になります。
【注意】
あくまでも合気系のワークは相対的なものなので身体操作能力に大きな差があるとパートナーを崩せないこともあります(パートナーの合気の抵抗力が強い場合)。
但し、その場合にもパートナーの受ける感覚が全く異なりますのでパートナーからフォードバックをもらうことが重要です。
合気上げについては10年ほど前まではネットの掲示板上で活発な議論がされていたと記憶しています。
さまざまな技法を駆使して合気上げを身につけることを目的にされていましたが、今考えると合気上げ自体は技法(テクニック)を使ってしまうとそこで上達が止まってしまうように思います。
意識操作も含めて様々な技法があるのですが、それよりもまずは「素の身体の使い方」を身につけることの方が優先順位が高く、応用性もあります。
その為にもまずは「腕力」を使ってできることは重要です。
最近ではYouTubeといった動画で当時掲示板上を賑わせていた方々の合気上げが見れるようになりました。
それを見て思うのは「それほどレベルの高いことはしていない」ということ。
掲示板という文章のみの表現では読み手側のイメージを掻き立て、さも「すごいことだ」と想像させるものです。そうした現象への期待もそれに一役買っています。
ですが実際に見るとそうでないことがわかります。
「合気」の原理などがわかってきたこともそう感じさせる一助になっていますが、、、。
レベル2:腿上げ(前方)
直接的に股関節と地面とのつながりを確認する方法です。
腿上げ(前方)方法
①つま先を前方に向けて立つ
②パートナーに片膝(膝の上)に手を置いてもらう
③反動をつけずにゆっくり押さえられた側の膝を持ち上げる(股関節の屈曲)
④パートナーは動き始めたのを感じたら軽く抵抗を加える
股関節と地面とのつながりができていれば抵抗された状態でゆっくり膝を持ち上げても抵抗感無く行えます。
逆につながりがない状態で無理矢理行うと体勢が崩れてしまいます。
色々とテクニックを使えばこのワークはできてしまいますので重要な点は、日常的なやり方で普通に膝を持ち上げるだけということです。
このワークの問題点としては難易度がかなり低いということです。
股関節と地面とのつながりがほんの少しでもできてしまうと簡単に行えてしまいます。
つまり、これができてもあまりすごくは無いということです😅
レベル3:腿上げ(サイド)
これは「レベル2:腿上げ(前方)」の爪先の向きを外側に開いた状態(股関節の外旋)で同様に膝を持ち上げるワークになります。
①つま先を外側に向けて立つ(逆ハの字)
※外側に向ける角度が大きくなるほど難易度がたかります。
②パートナーに片膝(膝の上)に手を置いてもらう
③反動をつけずにゆっくり押さえられた側の膝を持ち上げる(股関節の屈曲)
④パートナーは動き始めたのを感じたら軽く抵抗を加える
レベル2と比べると難易度は高くなります。
無理矢理膝を持ち上げようとすると体幹が捻れてしまいます。
実施した感覚ではパートナーによる抵抗された力が反対側の足から接地している地面に流れるのがよくわかります。
但し、これもあまり難易度が高く無いので簡単にできてしまうようです。
今後はもっと難易度を上げた評価を開発したいと考えています。
と言ってもあくまでも現時点での「ロルフィングのたちばな」の水準では難易度は高くないという話なので、まずは試してみてください。
伊藤昇氏の逸話
知人から聞いた伊藤昇氏の逸話をご紹介しようと思います。
聞き齧りなので内容に関して信じるか信じないかはあなた次第です😅
◆フェルデンクライス・メソッド
ボディワークの1つに「フェルデンクライス・メソッド」というものがあります。ロルフィングと同じぐらい歴史のあるボディワークです。
伊藤昇氏は一時期フェルデンクライス・メソッドの認定トレーニングに参加していたとのことです。
フェルデンクライス・メソッドのカリキュラムの期間として4年間(1年につき40日程度)研修を受ける必要があります。
伊藤昇氏は2年間で研修を受けることを止めてしまったとのことです。
その理由が伊藤昇氏の身体へのアプローチの考え方を大きく表しており非常に面白いです。
理由は、
『まどろっこしかった』
からとのことです。
もっと「もっと時間や回数をこなしてトレーニングすればいいじゃないか‼︎」と考えていたようです。
胴体力トレーニング経験者の方の話では、伊藤昇氏は武術家ですからかなり体育会系の考え方で、時間と回数を多く行うことを重視していたようです。
確かにフェルデンクライス・メソッドはグループレッスンと個人セッションの2つがあるようですが、かなり穏やかに行い、クライアントに負担をかけないアプローチという印象があります。
この穏やかなアプローチが伊藤昇氏には合わなかったのだと想像されます。
また、フェルデンクライス・メソッドに限定される話ではなくボデイワーク全般的に言えることですがこれらを学ぶ人たちは大抵一般の人です。「少しでも身体を楽にする助けがしたい」という考えを持った人が大半であり、スポーツ、ダンス、武術を積極的に向上させる目的で学ぶ人はかなり少数です。
そうした周りとの考え方の違いも合わなかったのでしょう。
但し、こうした体育会系の考え方によって、胴体力トレーニングを誰もが身体を変えることのできる再現性の高いメソッドにできなかった理由になっているように思います。
◆1蹴りに見える3連続蹴り
これは伊藤昇氏の武術の技量についてです。
上段蹴りを3連続で蹴られた時(実際には当てない)の話。
3回蹴られているのにあまりにも早く、連続していたので1つのつながりとして感じたそうです。
伊藤昇氏が学んでいた少林寺拳法は漫画では「飛燕の連撃」と称されているほど早い突き蹴りが特徴のようです。
胴体力トレーニングによってこうした特徴をより洗練させていたことが伺われる話です。
上記の「股間節の捉え」の話に戻りますが、自分自身「股関節の捉え」が全くわからなかった時期に色々と試行錯誤してこれが「股関節の捉えかな?」と思ったことも度々ありました。
ですが、そのレベルではこのような3連続の蹴りを1回の蹴りに体感させるようなレベルの芸当ははっきり言って無理だと認識することになります。
「股関節の捉え」をすぐに理解したいのに、理解できないという非常に苦しい時期を過ごしましたが、結果的にこうした逸話を聞いていたおかげで勘違いせずに済み今に至ります。
誰も体験していない
胴体力トレーニングは身体系というニッチな分野で大きな影響を与えています。
ネットを検索すると「胴体力トレーニング」という名を使ってエクササイズを教えている方がヒットします。
但し、残念なことにその多くの方が「胴体力トレーニング」を実際に体験していないという事実です。
書籍を読んだだけでその名称を使用しているのです。
これは胴体力トレーニングに限定される話ではなく、20年前に胴体力トレーニングと同様に人気のあった高岡英夫氏による「高岡理論」にも当てはまります。
なぜか書籍を読んだだけで理解できると考えているようで、そのままセミナーで教えているのです。
実際にその中の1つのトレーナー団体のセミナーを一通り受講した経験がありますが、高岡理論の考え方やトレーニング方法を採用はしているのですが解釈が完全に間違っていました(一応「高岡理論」を本家で20年ほど前に学んだ経験があります。高岡理論を指導はできませんが考え方は書籍だけ読んだ人よりは理解していると思っています)。
まずは興味を持ったメソッドを見つけたら一度で良いので実際に体験してみることをお勧めします。
考え方などの相性や経済的な問題で継続して通うことは難しいものですが一度体験するだけならばハードルはそれほど高くありません。
自分自身後悔しているのは「生前の伊藤昇氏に会っておけばよかった」ということです。
ちなみに一度体験したからといって「〇〇の弟子」とか、そのメソッドの名称を使って良いということにはなりませんのでご注意下さい。
終わりに
なんだかんだ言って「股関節の捉え」は仮説や主観を通してでしか検証するしか手段がない状態が悩ましいです。
「素の身体の使い方」も含めた身体操作系を身につけるのに、もっとも重要なことは適切な評価方法の開発です。
適切な評価方法を開発できれば、言葉遊びにならずに例えば「股関節の捉え」ができているかどうかを客観性を持って確認できます。
胴体力トレーニングやボディワークなどの身体系メソッドの問題点は創始者が亡くなってしまうと途端にそのメソッドの発展がストップしてしまい、衰退が始まること。
なぜなら、創始者の考え方を表面的に守ろうとするからです。
なので教えが形骸化して衰退していきます。
それが適切な評価方法があれば、明確に課題が見つかるのでメソッドの発展につながっていきます。
今回取り上げた胴体力トレーニングでも創始者が生きている時期であっても、誰もが再現性高く身体を改善させることは難しかったのですから課題はいくらでもあるのです。