はじめに
毎月4回「練習会クラス」という練習の場を設けています。練習内容は特に固定したものではなくその場で閃いたやり方を主に対人ワークを通して学んでいきます。昨日開催した練習会クラスで非常に面白い現象が起きたのでご紹介したいと思います。
まずは昨日の練習会クラスで実施した内容です。
2019.03.22(金)の練習会クラス実施内容
- 肘落とし
- 吊垂の身体使い(腕、両肩、脚)
- 重心移動による肩押し
- 肩甲帯の運動量を伝える
- ミット打ち(腕の重みを伝える)
①肘落とし
立位で肘を90度にしてパートナーに肘を支えてもらった状態で身体全体でしゃがむという対人ワークです。腕と体幹がつながっているかの確認を目的に行います。腕と体幹をつなげた身体の使い方(肩関節の抜き)ができないとどんなに体格がよくても肩が持ち上がってしまいしゃがむことができません。
②吊垂の身体使い(腕、両肩、脚)
身体を吊り垂らした状態の使い方を学ぶ対人ワークです。腕や両肩、脚をパートナーにある程度しっかり掴んでもらいその場に固定してもらいます。その部位を抵抗感無く動かせるような身体使いを学びます。
一般的な身体の使い方だとどうしても掴まれた部位を力ませて固めてしまいますが、これだとパートナーに反応されてしまい動かすことができません。そこで、全く抵抗が無い部位を動かしていきます。腕を掴まれている状態なら足は抵抗がかかっていませんからそこから徐々に掴まれている腕まで動かしていきます。こうした手順を踏むと捕まえられて過敏な反応で筋肉を固めていた状態が緩和されていきます。すると掴まれた腕がある時から自然にゆれてきます。パートナーが必死にその場に固定しようとしても反応できない動きになっているので自然にゆれてしまうのです。
ゆくゆくは意図的に腕を動かしてもパートナーに反応されない動きに近づけていきます。
今は腕を掴まれた状態で説明をしましたが両肩、脚を抵抗されても同じです。こうした抵抗されても抵抗感無く動ける状態がダンスや武道で言われる「吊られる」「垂れる」という身体の使い方になります。一般的には「知識としては知っているけども実際にどういった感覚なのかわからないと」いうケースが多いのですが、かなり具体的なものです。
以前日本ロルフィング協会にて日野晃さんにWSを開催していただいたことがあります。僕自身、日野さんから両肩に触れられた状態で横に抵抗感無く平行移動させられるという体験をさせてもらいましたが、こうした吊垂の身体使いで行うと同様のことができるようになりますね。身体使いの原理・原則がわかった上で段階的に行うと初めての方でも行えるようになります。
③重心移動による肩押し
対面になり片腕を相手の肩の横(腕の付け根)に触れます。相手を横にずらすように力を入れて拮抗状態を意図的に作ります。腕力だけでは相手は横に動いてくれませんが、重心移動を行い重心移動による運動量を相手に伝えることができると容易に相手を横に動かすことができます。よくあるのは肩を押す方向と真反対に骨盤を移動させてしまい(無意識的なカウンターバランス反応)結果的に重心の移動を自分自らが止めてしまっているケースです。この無意識的なカウンターバランス反応を武道では「居着き」と呼びます。
移動しようとする意図に反したその場に留まろうという無意識的な反応です。「居着き」があると身体を効率的に使うことができません。「居着き」が少しでも解消できると相手を横に容易にズラすことができるので、「居着き」解消のトレーニングであり評価としても使えます。
④肩甲帯の運動量を伝える
立位から前腕が地面に垂直になるように挙上した状態で手首をパートナーに掴んでもらいます。その状態から肘を伸ばすトレーニングです。力づくで肘を伸ばすとパートナーに抵抗されてしまいますが、前腕の肘の付け根から力を発生させると鎖骨・肩甲骨が自然に肋骨とズレあい身体全体を引っ張る構造になります。この時に重心移動による運動量が発生し掴まれている部位に伝えることができれば相手は抵抗できずに後ろに押されてしまいます。
武術などでは「手先から動く」「末端主導操作」などと言われる動きです。僕が「波の原理」と呼ぶ身体の使い方でもあります。
重要なポイントは見た目上は肘をを突き出してから手首を押すように見えるので形(フォーム)を真似して肘を突き出すフォームで行なってしまうこと。フォームで行うと機能性は全く発揮されません(重心による運動量が伝わらない)。
この身体の使い方が身につくと空手の突きや前蹴りで重心移動による運動量を活用できるようになり打撃が浸透するようになります。
この重心移動による運動量の伝達を「身体の重みを伝える」と表現することがあります。
⑤ミット打ち(腕の重みを伝える)
④でトレーニングした重心移動を実際に前腕を振り下ろすような打撃の動作に応用します。練習会クラスでは軽いパンチングミットではなくしっかりとしたキックミットに打撃を行なってもらっています。
パンチングミットだと腕力があれば派手な音やそれなりの衝撃力が体感しやすいのですがキックミットではそれが通用しません。表面で打撃力が分散するのがよくわかります。全身の重心移動による運動量が伝わると単に前腕を地面に垂直にした状態から振り下ろす動作でもそれなりの浸透力となります。
一応「打撃力」という表現をしていますがこのような身体の使い方は野球のスローイング、バレーのスパイクにも役立ちます。
練習経験による違い
この⑤のミット打ちの時に面白い現象が起こりました。
打撃系格闘技経験者の方と経験無しの方がいたのですが、経験者の方はなかなかできませんでした。どうしても「突き」動作になってしまい、前腕を振り下ろす動作ができません。また、一般的な「突き」動作なので重心移動による運動量を伝えることができませんでした。
それに対して経験の無い方は素直に前腕を振り下ろす動きでミットをもっている相手の身体全体をゆるがすような打撃を放つことができていました。
これはどういうことかと言うと打撃系格闘技経験者の方はどうしても以前、練習した「突き」「パンチ」に引きずられてしまい初めて行う動作を素直にできなかったと推測されます。これが練習の特徴になるのですが、練習を熱心に行えば行うほどその動作に特化した動き・運動パターンを強化していきます。そして、それは一つの自動運動プログラムとして脳内に設定されるので「突き」というイメージで行うと以前行った「突き」の運動プログラムが無意識に発動してしまい、新しい動作がなかなかできないということになります。
似たような動作の経験があるからこそ、その新しい動作を行いにくくなるという傾向があるということ。
重要なことはその経験に則った指導をすること
では全く練習経験が無い方が良いのかと言うとそれは違います。新しい動作を学ぶ際の初期には手間取ることもあるかもしれませんが、その後別の種目を練習した経験によって新しい発想や動作ができるようになる可能性も高いのです。
重要なことは個々人によってそれまでに経験してきた事柄は異なるので、個々人にあった個別の対応した指導が必要ということです。
練習に“素の身体の使い方”という考え方をプラスする
またどのような学び事でも練習に加えて“素の身体の使い方”という考え方をすると上達を飛躍的に高めます。“素の身体の使い方”というのは練習会クラスでトレーニングする「吊垂の身体使い」「重心移動」「軸」「脱力」と言ったものです。
この“素の身体の使い方”はあらゆる分野の技術の前提となるものです。身体の使い方の原理・原則でもあります。
測定機器で測定する際に、測定前に正しく測定できているかを確認するキャリブレーションが重要になります。体重計なら1キログラムが本当に正しく測定できているのかという確認や調節のことです。これがずれているとせっかく体重を測定しても誤差が大きくなってしまうので正確な値が出なくなってしまいます。
身体の使い方のキャリブレーションとなるのが“素の身体の使い方”になります。現在の調子を“素の身体の使い方”で確認する、新しい学び事をそれまでの経験ではなく“素の身体の使い方”の原理的な捉え方をするということ。
そうした“素の身体の使い方”を習慣化していくと、今回の打撃系格闘技の経験者の方のような事象を防ぐことができると思われます。また、取り組みをしていくと上達率が高まっていきますね。
練習会クラス
練習会クラスでは僕が閃いたアイディアを随時フェアしていきます。月4回ですがお仕事の関係で全てでれない方も歓迎いたします。実際にこの2ヶ月練習会クラスを実施してきましたがお仕事の関係で欠席されている方は幾人かおられます。
単発でのご参加も歓迎いたしますので、少しでも興味を持たれた方は是非一度参加してみてください。
練習会クラスの日程・お申込みは↓のリンク先【セミナー/イベント情報】でご確認下さい。