施術力を高める指操作

はじめに

施術を行うにあたって骨膜リリースでも、筋膜リリースでも、関節リリースでも、マッサージでも、繊細に触れるクラニオ系でも、直接ふれないエネルギーワークでさえも“素の身体の使い方”がその施術の効果を左右します。

一言で言ってしまうと「軸」ということになりますが、より具体的な表現をすると受け手に感知されづらい使い方をするということです。ロルフィング®︎の基本のテクニックである筋膜リリースでは肘や前腕を活用したテクニックが多く存在しますが、これは手や指を使うよりも受け手の防御反応を起こさないようにする目的があります。

一般的な身体の使い方をされている人にとっては手で行うよりも肘・前腕と言った自分自身でもコントロールがしにくい部位で行う方が変な意図が施術に入らないので効果を高めることができるのです。手のひらを使う場合にも理学療法の分野では「虫様筋握り」という独特な握り方をして相手の防御反応を起こさない工夫をしている流派もあるそうです。

但し、こうしたテクニックに頼っていると地力は高まりません。キャリアが20年、30年経過したとしてもテクニックに依存している場合には施術力は高まりません。運動学習の考え方をすると繰り返しの動作で「馴れ」はしますが「洗練」はされないからです。

身体のどこの部位を使おうとも施術のタッチを洗練させる為には“素の身体の使い方”をトレーニングすることが有効になります。

高度な手の使い方

これまで僕自身それなりの施術を受ける体験をしてきましたが、全く防御反応が起こらなかった施術者は2人ぐらいです。1人は僕が師事している先生です。WSに参加する際に時々先生による施術を受ける機会があります。繊細なやり方も強圧を使うやり方も何でも習得されているのですが、特に強圧での施術は非常にわかりやすいのです。

強く圧をかけられるのですが自分の身体に抵抗反応が起きにくいのです。強い圧なので受ける側としては悲鳴をあげるぐらい痛みを感じます。通常ならガチガチに筋肉が硬めてしまうものですが、それが筋肉の過度な緊張が起きないので素直に筋肉に指が入っていきます。そしてその効果が凄まじいのです。筋肉がゆるむ・ゆるまないというレベルではなく身体の意識が通ってしまいます。

そして、2人目はロルフィング®︎のドイツのインストラクターであるカーニー。カーニーの肝臓に対する内臓マニピュレーションを受けた時は驚きました。肝臓へのマニピュレーション(施術)は腹部から指を差し入れて肝臓にコンタクトします。この時大抵は指の感覚が明確だと不快感を感じるものです(痛みを感じることもあります)。それがカーニーの指の感触は全くなく腹部に指が入ってきます。軽くお腹に触れられている感じでまだ浅い部分なのかと思っているといつのまにか肝臓にコンタクトされているのです。

肝臓の内臓マニピュレーション系のテクニックはこれまで数名の方に習いましたがこんなタッチはカーニーしか体験していません。

指の具体的な使い方

もちろんこうした高度な防御反応を引き出さないタッチは誰でもできます。そのような“素の身体の使い方”を身につけることです。参考になるのが下のツイートの動画です。

「指を掴まれた状態で相手を崩す」というもの。一般的な身体使いだと指を直接動かそうとしてしまいます。当然、指一本よりも相手の手の方が構造的に強いですから全く相手は崩れないどころか自分の指を痛めることにつながります。

それが、「波の原理」を使って体幹部の力(厳密には「運動量」)を指先に伝える“素の身体の使い方”を行います。すると体幹という土台から運動量を伝えることができると掴んでいる指の土台から相手を動かすことが可能になります。

「波の原理」は↓動画を参照。

運動量には反応しづらくなる

物理学の「力:F=ma(質量×加速度)」と「運動量=mV(質量×速度)」は異なった考え方です。力積と運動量が同じ考え方「力積:Ft(力×時間)=運動量:mV(質量×速度)」

人間の生理学的な特徴として「力(筋力)」には反応しやすいですが、力を運動量に変換されると突然反応しづらくなります。簡単に説明するとこれが指一本で相手を崩すメカニズムです。

メカニズムがわかればそうした体幹の運動量を末端に伝えるトレーニングをすればこのようなデモンストレーションはできるようになります。相手をコロコロと転がすにはその練習をする必要がありますが、施術や他の分野に運動量を使えるようにするという目的ならば掴まれた手を抵抗なく動かす程度で十分です。

僕自身、師事している先生から何度か同様の指一本で派手に吹っ飛ばされた経験があります。当時はメカニズムが全くわかりませんでしたが、色々と知見が増えるにしたがってメカニズムに気づくことができました。試しに「波の原理」を活用して行ってみると、指先を掴まれていても自由に動かすことができました。

「合気」とは自分自身の反応で身体が崩れる現象のこと

ちなみにコツを紹介しておくと体幹の運動量を指先に伝えた際にわざと指先を力ませます。すると相手はよりしっかりと指を握ろうとする反応がでます。こちらの運動量が伝えていれば相手がしっかり握るのは指だけで相手の土台は「波の原理」により自由に動かせる状態です。

すると、相手としては「しっかり握っている」意識なのですがこちらの運動量によって相手の土台が既に崩れている状態になります。相手は自身の身体が崩れた状態を無意識で修正しようとするのですが、そもそも人間は運動量を感知しづらいのです。感知できない状態で勝手に身体を修正しようとするならばよりその崩れは大きくなります。つまり、その身体を立て直す自身の反応自体が自分自身の身体をさらに崩すことにつながるのです。

この自分自身の反応で身体が崩れる現象が武術で言うところの広義の意味での『合気』になります。

※ちなみに狭義の「合気」とは特定の流派内での呼称によるものです。「(他流派に対して)あれは合気ではない」「⚪︎⚪︎先生にしか合気はできない」という言い方がされることがあります。ですが広義的な人間の現象と捉えるならば特定の流派や個人しかできないということは論理上ありえません。

メカニズムがわかると一見不思議な現象も再現性が高くなり誰でもできるようになります。そしてその対策もわかります。相手の運動量を感知できる感性があれば「合気」は全くかからなくなります。これが「抵抗力」という考え方です。

施術力

個人的な体験ですが、ここ最近自分自身の身体の“素の身体の使い方”が劇的に向上しています。それに比例してロルフィング®︎の施術の効果が高まっているの感じます。

関節リリースという関節を軽くホールドして身体をゆるませる施術テクニックを昔使っていましたがここ数年使っておらず久々に使ってみた時です。以前とは比べものにならないぐらい早く、そして深く筋肉をゆるませることができるようになっており驚きました。

以前はロルフィング®︎のセッションでは意識操作も使っていましたが今では身体の“素の身体の使い方(軸)”にまかせるようにしています。

今後も自分自身、各種の軸トレーニングや様々な原理を模索して施術力を高めていこうと思います。


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