足半草履:身体運用能力を高める履物

はじめに

数年前に足半草履(あしなかぞうり)という足裏の前半分しかない草履を購入しました。

今となっては購入した動機を忘れてしまったのですが、足半を履くとその特殊な形状によって足裏が自然と使えるので重心移動がしやすくなるという効果があることは認識していました。

週一回のペースで開催している「軸トレーニング研究会クラス」の中で足半について話をしたところ、参加者のお一人が足半を購入して家の中で履いているとの報告を受けました。

せっかくだからと軸トレーニングWS「体幹の開発②」や「軸トレーニング研究会クラス」で足半を履いてどのように身体運用に違いがでるのかを検証してみたところ「重心移動」だけでなくいくつかの興味深い現象が発見できました。

▼足半草履。上の小さい方(前後幅が10センチ)が効果が高いです。下の比較的長い方は効果がかなり薄くなります。

足半の効果

現在わかっている足半の効果は以下の通りです。

①重心移動がスムーズになる(前蹴り、ローキックが強くなる)
②立位で下肢のポジションが整う
③体幹がしっかりする
④四つん這い(膝付き)で肩甲骨のポジションが整う
⑤正座での腕相撲時に腕と体幹がつながる

①前蹴り、ローキックの威力増

軸トレーニングWS「体幹の開発②」では、前日に重心移動の運動量を活用するローキックや前蹴りで悩まれていた方に足半を履いてもらいキックミットへ前蹴りやローキックを行なってもらったところ足半を履いただけで重心移動の運動量が上手く伝えられるようになってしまいました

所有しているキックミットはしっかりしたもので通常の蹴り方では表面で威力が減衰してしまいます(▼画像参照)。

重心移動が伝えられるとある意味「体当たり」になるのでかなりの衝撃になります。

それだけでなく、重心移動を活用できると予備動作がなくなるので「スーッ」ときて突然打撃を受ける感覚になるのですがそうした現象も自然に起きていました。あるWS参加者の方は「これは怖い」と感想を漏らしていました。

これは足半を支持脚に装着した場合ですが、蹴り足にも装着するとその打撃の浸透度は高まります。ちょうどキックミットに当たる部位が足半を装着した場所とかぶるので軸足での重心移動に加えて、打撃面での足底の使い方も無意識的に変わることが推定されました。

僕も足半を装着して同様に前蹴りやローキックで確認してみましたがダイレクトに重心移動の運動量が伝えられる感じです。

全力をだすとこちらの身体が壊れてしまう怖さがあります。

②立位での下肢のポジション修正

前蹴り、ローキックはある意味予想できた現象ですが、その後の「軸トレーニング研究会クラス(以後研究会クラス)」では立位での下肢のポジションが整うという効果もあることがわかりました。

最近の研究会クラスでは立禅(腕の使い方がメイン)をテーマとして行っているのですが、試しに参加者のお一人に足半を履いて行ってもらいました。

これは本当に興味本位で何か効果が起こることを期待したものではなかったのですが、ふとその方の立禅している姿を見ると下肢がとてもきれいに整ったポジションになっていたのです。

ご本人もいつもよりも下肢が整っている体感があるとのこと。

そこで足半を脱いでもらい同じ立禅の姿勢をとってもらったところ、下肢のポジションが乱れた状態になったのです。

再度足半を装着すると下肢が整います。

足半の特殊な形状によって足裏が刺激される為なのかわかりませんが下肢のポジションを整える効果を確認した瞬間でした。

③体幹の遊びがなくなりしっかりする

相撲のような骨盤を押す動作で足半の効果を確認してみました。

すると受け側が足半を装着すると体幹の遊びがなくなりしっかりと安定して押せなくなってしまいます。

足半がないと脊柱や四肢の関節の遊びが感じられ容易く崩せてしまうのですが、装着するとその遊びがなくなりかなり崩しにくくなります。

逆に押す側が足半を装着すると簡単に押せるようになります。

近年、体幹トレーニングが流行していますがこうした足半を装着した時の体幹の安定度とトレーニングでの成果を比較しても面白いかもしれません

実際に体幹トレーニングを行なって体幹を鍛えているつもりでも実際には弱いままというのはよく指摘されていることです。

足を浮かせているのに肩甲骨が整う

上の3つは足裏を地面につけている状態なので理解はしやすいのですが、どうやら足半は地面に足裏を着けていなくとも効果があるらしいことがわかりました。

足半を装着した状態で四つん這い姿勢を確認されていました。すると、

「肩甲骨の感覚が違う」

といったニュアンスの感想を言われました。

その姿勢に目をやると確かに肩甲骨と腕のポジションがよいのです。

そこで足半を脱いでもらうと立位での下肢と同様にポジションが乱れます。

四つん這いでのポイントは膝をついた状態であり、足裏は地面とは全く接触していないということです。

つまり、足半を足に装着するだけで地面に接地していなくとも効果があるということになります。

この時点でメカニズムが全くわからず足半の謎が深まりました。

正座で腕と体幹がつながる

最近の研究会クラスでは「橈骨の抜きポジション」「尺骨の抜きポジション」を使った腕相撲をすることがあります。抜きポジションを活用すると腕相撲で女性が男性に勝ってしまうこともあるほど強くなるのです(予測するベクトルが異なるので一瞬反応がしずらくなる為)。

腕相撲のやり方は床に正座した状態で行なっています。

話の流れで足半を装着して腕相撲を行なってみたらと試して見たところ、かなり腕相撲が強くなったのです。

よくよく観察してみると足半を装着すると腕と体幹がつながった状態になります

これも足裏自体は地面とは接触していません。

足半の謎は深まるばかり

上記の現象から足半草履は装着するだけで何らかの効果が起こるようです。

特に足裏が地面に接触せず、かつ上肢に影響が起こることは興味深い現象です。ネットで調べてもそうした現象の記述は見当たりません。

足半を購入して2〜3年放置してしまっていましたが再度関心を持って探求したい欲求が沸き起こってきました。

そこでひとまず、さらに足半を2つ購入(▼画像)しました(現在もう一つ注文済です)。

向かって左が表面、右が裏面です。

今後の展開

足半の効果は無視できません。足半を上手く活かすことができればスポーツやダンス、武道、リハビリなどの分野でかなりの効果を出してくれそうです。

空手や合気道などの裸足で行う競技では足半をそのまま履いて稽古するだけでかなり上達を促進させることが期待されます(足半を履いて稽古することが社会通念上ゆるされるかということ社会心理学的な問題がありますが、、、)。

但し、スポーツでは足半を履いて練習・トレーニングするということはなかなか難しいのも確かです。

実際、▼動画のように足半でランニングしている方もおられるようですがかなり条件が限定されます。

踵を踏む 足半ランニング 上り

そこで、足半草履の効果の大元を抽出して靴を履いた状態でも同様の効果を引き出す方法を開発したいと考えています。

足版のシナジー・サポーターですね(実際に足半の効果は足の「シナジー・ポジション」が関係していると個人的に予想しています)。

これが開発でき浸透させることができると日本のスポーツ、ダンス界はかなり変わると思われます。

終わりに

足半草履は鎌倉時代前から明治まで履かれていたそうです。

足半の効果を体感すると昔の日本人の身体能力の高さが予想できます。

日常から足半を履いており日常からその動作を学習できていたとしたらかなり凄まじい能力を身につけていたとしても不思議ではありません。

日本人の文化的動作パターンは「末端主導体幹操作」だと個人的に考えています。足半草履を履くことによる重心移動はまさに「末端主導体幹操作」の典型的な特徴になります。

明治以降、文化的には「末端主導体幹操作」が残存しながら、実際に学ぶのは「体幹主導末端操作」優位の西洋のスポーツ的な動きではお互いが相殺しあっているのが日本人の身体運用能力を低下させている原因ではないかと個人的に考えています。

日本文化で育った場合に最優先で身につけることは前腕や下腿から先を起点とした「末端主導体幹操作」だと思われます。

その点、足半草履を履くだけで勝手に下肢の「末端主導体幹操作」型の動作パターンが発動しやすくなるので日本文化ではかなり有効なのではないかと思われます。

今後色々わかってくると思います。

楽しみですね。