動作改善が難しい理由

その位置に身体を動かせないことを知ること

「ロルフィング®︎のたちばな」では“素の身体の使い方”を提唱しています。これは技術、体力、心理を上手く使う・向上させる前提となるものでパソコンで言えばOS(オペレーション・システム)のようなものです。

“素の身体の使い方”の基本として

①「肩関節の抜きポジション(肩抜き)」
②「股関節の抜きポジション(股関節抜き)」
③「頭部リンク(軸ウォーキング)」

の3つを最優先に身につけるべきだと考えており、ロルフィング®︎10シリーズ内で上記を身につけるムーブメント・エクササイズをご紹介しています。

①、②で「⚪︎⚪︎ポジション」という名称をつけているのですがそれには理由があります。一般的な身体の使い方をされている人にとって、天才と呼ばれている人たちが行なっているこれらの“素の身体の使い方”を習得しようとした場合にまずその位置に身体を持っていくことができないのです。

まず「肩関節の抜きポジション」では肩がまるで抜けたような肩甲骨と上腕骨で形成される特徴的な位置に動くことができません。これはかなり明確なのでわかりやすいものです。

そして「股関節の抜きポジション」は股関節で体重を適切に支える骨盤と大腿骨の使い方です。これが身につくと脚のラインがとおり仙骨から脚を使えるようになります。見た目では「肩関節の抜きポジション」に比べるとわかりにくと思います。ですが逆にエクササイズとして行うとその難しさがわかりやすいのはこの「股関節の抜きポジション」の方です。

ロルフィング®︎のセッションや軸トレーニングWSで「股関節の抜きポジション」を身につけるムーブメント・エクササイズをご紹介してわかったことですが、このエクササイズをすると『キツイ』との感想を言われるクライアントさんが非常に多いのです。エクササイズ自体は片足に体重をかけた状態での骨盤のアイソレーションを少し繊細にしたようなものなので特に筋肉への負荷が大きいという種目ではありません。

それなのに『キツイ』とのこと。

骨盤と大腿骨のポジションがずれた状態で股関節で体重を支えてしまっているので骨盤を動かした際に余計な力みが太ももに生じてしまうのです。

エクササイズでは意図的に正しい状態を設定して行うので太ももなどがキツク、しんどくなりますが、日常的な動作の場合はそもそもこのようなしんどい動作はむしろ避けます。これは癖となっているわけでこのような身体の使い方ではどんなに練習をしても動きの質は向上しません。

「肩関節の抜きポジション」「股間節の抜きポジション」を身につけるにあたって重要なことはまずその位置に身体を動かすことが難しいことだと知ることでしょう。

体験したことがないから力んでしまうだけ

ダンスなどの腕の表現で指先を伸ばしながら腕を持ち上げる際にどうしても肩周りに力みをもってしまう傾向があります。

プロのダンサーの中にもこの力みを消せずに技術でなんとかしようと苦戦している姿を度々目にすることがあります。

この事例から言えることは、技術の練習では力みを消すことができないということです。

論理的に考えると練習で力みを解消することは論理的に不可能だとういうことがわかります。

どういうことかとえば、腕を持ち上げる際にすでに肩周りの筋肉の過度な緊張が入るからです。過度な緊張が入った状態で練習をしても過度な緊張がある状態をベースにしてなんとかしようとするのですからこのベースである部分に影響を与えることができないのです。

では過度な力みを解消することはできないのかといえばそうではありません。

ある方法を使えば誰でも過度な力みを解消できる可能性があります。

それは力みの無い状態を疑似体験させてあげることです。

最近開発した誰でも力みなく腕を持ち上げることを疑似体験させるワークがあります。

ワーク例

①立位で手首を他者に持ち上げてもらう(手首から肩にかけて力を抜いて垂らした状態にする)
②腕を垂らした状態を維持しながら、肘を横に持ち上げる
③腕を垂らした状態を極力維持しながら、肘を伸ばす

この手順で腕を広げた状態にすると肩周りの過度に力ませることなく腕を持ち上げることができます。他者に手を持たれた際に腕を垂らせることが条件ですが、この条件さえクリアできれば誰でも力みのない腕の挙上を疑似体験することが可能です。

この時の感覚は非常に面白いもので腕の重さが首の付け根に乗っかる感覚です。決して肩の筋肉ではありません。例えば、右腕だけ上記のように持ち上げて、左腕は普段通り持ち上げてみるとその違いはより顕著にわかります。あきらかに左右の腕は運動構造が異なる使い方をしているとわかります。他者から見ても右腕は体幹と腕がつながって非常に美しく見えます。それに比べて、左腕は筋肉の過度な緊張がよくわかります。

これは一時的な身体の変化ですがこのように疑似体験することができると、身につけることができるようになります。

動きの習得の脳のプログラムのアップデート

何かの動作を学ぶ際に重要なことは疑似体験することです。体験したことがないことを身につけることは不可能なぐらい難しいものです。

運動(動き)というのは脳内の運動プログラムによるものです。運動を学習することにより運動プログラムを更新しアップデートすることで新しい身体の使い方を身につけることができます。過度に力んでしまうのは「過度に力む」という運動プログラムが働いているからです。

そこで体験できると新しい運動プログラムを学習し始めます。当然、長年活用していた運動プログラムは刷り込まれているので容易には上書きされません。ですが、『ローマの道も一歩から』というように地道に“素の身体の使い方”を改善させていくとあれだけ根強くあった過度な力む使い方がなくなっていきます。

疑似体験させる方法

目的とする身体の使い方を疑似体験する方法はいくつかありますが、特殊なものはやはり施術的なアプローチです。

ムーブメント・エクササイズを継続して行っても力みのノイズができてしまいます。自身の苦手な部分の力みが取りきれないわけですが、そこでロルフィング®︎のような施術を行うとヤスリをかけるような感じでノイズが解消します。さらに「身体をつなげる」「骨の意識を通す」施術テクニックを使うとより完成度が高まります。

理想を言えばムーブメント・エクササイズだけでも、施術だけでも身体は効率的には変わりません。メカニズムの異なるアプローチを組み合わせることにより効果が飛躍的に高まります。

「股関節の抜きポジション」のエクササイズが典型的でわかりやすいのですがロルフィング®︎の施術前にムーブメントをご紹介すると大抵上手く行えません。ぎこちなかったり、腰部が力んでいたり。それがその後、施術を受けて再び「股関節の抜きポジション」を行なってみると見事に適切に行えるようになっています。これは施術によって余計な力みが解消し、体幹と脚が無意識的につながった為です。

エクササイズと施術の組み合わせは非常に有効ですね。