はじめに
書店にいくと様々なトレーニング関係の一般書籍を目にすることができます。体幹トレーニング系、バランス系、リラクゼーション系など様々な種類のものがあります。特にトップアスリートがトレーニングしている、広告塔になっているものはかなり販売部数が伸びるようで同じような内容のものがシリーズ化されたり、別の出版社から発売されるなど流行することがあります。
でも、その勢いは一時的なもので長くは継続しないケースが多く見受けられます。
色々な要因はあるかと思われますが理由を考えてみると、
イメージしていたほど効果がなかった(感じなかった)
ということが挙げられます。
高校3年から20年以上身体や動作の探求を進めてきましたが、一通りのトレーニングはセミナーで習ったり、本で独習したり、再開発したりしてきました(再開発する経験が1番そのトレーニングの本質を深く理解することができます)。
そうした経験からトレーニングついて記していこうと思います。
効果は二の次で「わかりやすい」が優先される
効果が実感できないトレーニングの大部分は「わかりやすい」ことを最優先としているからです。印象として「このようなエクササイズをしたらなんか身体が変わりそう」と思ってもらうことにステータスの全てを配分していると言ってもよいでしょう。
例えば、不安定なものに乗るトレーニングツール(バランスボール、バランスディスク、一本下駄など)が挙げられます。普通に立つだけでも大変だからこれが安定して立てるなら身体能力が高まってスポーツに役立つだろうという印象が起こります。
でも実際にはその印象ほど効果が無かったりします。むしろマイナス効果もあります。
バランスディスクを活用したトレーニングの研究では、バランスディスクという不安定なツールを活用すると瞬発系トレーニングの効果が低くなることが示唆されたそうです。
⚫︎ドロップジャンプ:高い場所から飛び降りてすぐにジャンプできる高さ
⚫︎垂直跳び
⚫︎短距離
⚫︎アジリティ(敏捷性)
などの項目でバランスディスクを活用した場合よりも、活用しなかった場合の方が測定記録の伸びがよかったとのことです。
このようにトレーニングというのは実施すれば必ずプラスの効果だけが起こるというものではなく、マイナスの効果というものも起こる可能性があるということを理解して選択して行う必要があります。
ちなみに、なぜ不安定なトレーニングを取り入れた方が記録の向上が低くなってしまったのかはいくつかの推論ができますが1番可能性が高いのが、
不安定な状態でバランスを取る為に余計な力みが強くなった
ということだと個人的には思います。
バランス系全般に言えることですが、地面の上とは異なる身体の使い方(モード)で身体を使う動きを学習してしまうので、通常の地面でも余計な筋肉を働かせてしまうことになりやすいのです。これは俗に言うところの「地面を踏みしめる」という状態です。
これはスポーツやダンスでは絶対に避けなければいけない状態ですが、それが意識せずに身につけてしまうことで上記のような研究結果になったとのではないでしょうか。
もしかしたら、不安定な道具の上でもまるで地面に立つような身体の状態(モード)で行うことができれば研究結果は変わっていたかもしれません。
某太極拳のサイトではバランスボールに乗るエクササイズを紹介していましたが、脚を踏みしめることなく意図的に地面に立つかのようなモードで乗ることを意図して行われています。認識している人は確実に存在しています。
但し、不安定な道具の上でもそのように普段通りの状態(モード)でエクササイズできること自体が能力なので、現在の科学の認識ではあまりにも現時点では現実離れした条件設定になるでしょう。
そもそも1番の問題点としてはこのようなモードの問題を研究者やトレーナーが認識していないということ。認識していなければ研究対象にすることはできません。研究対象にならなければ研究結果は当然できないのです。
ここでお伝えしたいことはトレーニングの効果はプラスだけでなくマイナスもあるということ。そして、直感やイメージした効果と実際の効果は異なる可能性があるということです。
そして、書籍などでは、読者にわかりやすくイメージしやすいタイプのエクササイズを対象とした書籍が多く出版されており、実際に販売部数が伸びるという特性があるということです。
つまり、わかりやすいので売れるのであって、効果的なトレーニングだから売れるわけではないのです。
これは書籍の特性なので今後もこの傾向は変わらないでしょう。消費者が学ぶ必要があります。
ちなみに、ここでの不安定な道具を使うエクササイズに関しては健常者が自身のパフォーマンス向上を意図した場合での指摘です。
元々、この不安定な道具を使うアイディアはリハビリから来ていると個人的に理解していますが、リハビリでは感覚受容器を刺激するのに有効だと思いますので、そういった目的の場合で活用することには何も問題はありません。
効果が不明なのに広まってしまった静的なストレッチ
実感があるが故に効果が不明でも全国に広まってしまったエクササイズには静的ストレッチがあります。
静的ストレッチはケガ予防としてウォーミングアップに活用しているケースが多いと思います。
静的ストレッチのメカニズムとしてしばらく筋肉を伸ばすことによって「伸張反射」という急激に筋肉を伸ばされた際に起こる筋肉を縮める働きをする反射を抑制することで筋肉を伸びやすくします。
この「伸張反射」の抑制という点が鍵です。
瞬発的な動きをする際に筋肉が一旦伸びることで「伸張反射」が発生し、より強い収縮をすることができます(プレイオメトリックというトレーニングではこの伸張反射を積極的に活用して瞬発力を高める目的で行われます)。
それが「伸張反射」を抑制するということは瞬発的な動きに支障がでるということです。
この10年でストレッチの研究が進み、
「静的ストレッチを行なってもケガの起こる率は変わらない」
「静的ストレッチ直後は筋肉の瞬発力が低下する」
などのデータがでてきています。なので最近では静的なストレッチを行う時間を30秒以内にしたり、動的なストレッチが重視されたりとスポーツ現場の捉え方が変わってきています。
このあたりは個人的に実感として感じていました(静的ストレッチをすると途端に身体が動かしづらくなる、ジャンプしづらくなるなど)。
また、研究としてそういったデータがあることも知っていました。
ですがダンスのレッスンでは必ずストレッチが行われていたり(長いところだと30分ほどストレッチに費やす)、運動指導員をしていたこともあるのでスポーツ前に準備運動として静的ストレッチを指導してと要望されることあり、このような「静的ストレッチをしなければいけない」という風潮に非常に困った経験が多々あります。
このようにケガの予防としての効果がないにもかかわらずここまで静的なストレッチが広まったのはやはり筋肉が伸びているという実感があるのと(これも誤解で実は筋肉が縮んでいる感覚であることが多い)、筋肉が「伸張反射」の抑制によって伸びやすくなることがケガの予防と結びつけ易いというのがあります。
わかりやすいからといってそのような効果はない、という事例の1つです。
もちろん、バレエや空手など筋肉を伸ばすことで可動域を広げる為には静的ストレッチは十分活用できます。
重要なことは目的としている効果が実際にあるのかを随時確認したり、最新の情報にアンテナを貼っておくことです。
トレーニングを開発する人たちに欠如している「感覚」と「認識」
これは専門家での特徴になります。
スポーツのパフォーマンスを向上させる為のトレーニング方法を開発しようとした場合ですが、通常はわかりやすい要素を対象とするケースがほとんどです。
動作トレーニングの場合には、
⚫︎肩甲骨の可動性
⚫︎骨盤の可動性
⚫︎背骨の可動性
などトップアスリートではプレイ中に自由に動いている部位をターゲットにすることが多くあります。でも大抵は動作トレーニングを開発する人物は残念ながらトップアスリートになれなかった人たちなのです。
僕自身も含めてスポーツを行っていく上でふるい落とされた人がトレーナーやボディワークなどを通して動作や体力面でのトレーニングの指導役にまわることが大半なのです。
何を言いたいかといえば、こうしたふるい落とされた人はトップアスリートに必要な要素(感覚)を身につけていないということ。そして、通常はその存在にすら認識できていないということでもあります。
もし「感覚」と「認識」を持っていればふるい落とされなかったわけです(大きな視点で見ると身体を痛めるというのもこの「感覚」と「認識」の欠如が要因となっている)。
トップアスリートのプレイを見て各部位が自由に動いていると見えると単純にその部位を自由に動かすようなトレーニングを開発します。
でも実際には身体の体幹と四肢がつながった状態で結果的に自由に身体は動いていることが認識できていないので効果的な動作トレーニングになりません。
野生動物の動きが動物の本来の身体の使い方とするとトップアスリートの方が一般の人よりも野生動物に近い動きをしています。
なのでスポーツに全く関心がない人にもトップアスリートに近い動きを身につけることができるとそれだけで日常動作が快適になります。
でも、この「感覚」と「認識」がない動作トレーニングでは単に身体を動かすだけとなるので日常動作の質は全く変わらないのです。でも動かなかった「肩甲骨」「骨盤」「背骨」が動くようになるのでわかりやすくはあります。でもそれだけです。
どのセミナーも同じだった
数年ほど前のことです。
ロルフィング®︎やムーブメントの開発がある程度進んできたので周りの同業者がどのようなエクササイズを行なっているのかを確認する目的でいくつかのセミナーを受講したことがあります。
そうしてわかったことは細部は異なっていたとしてもどのエクササイズ系のセミナーでも僕が大学時代や数年前に開発していたようなものを実施していたということです。
結局は皆思いつくことは同じだったのです。
僕の目的としては天才と呼ばれるアスリートやダンサーの天才的な動きを誰もが習得できるメソッドの確立です。
そのような視点で動作トレーニングを探求していくと、全く天才たちには近づけもしないことが自然とわかります。
こうしたことに気づいていくと天才の動きの本質が少しづつ見えてくるのです。
そうして天才の動きを再現性高く身につけることができる動作トレーニングを継続して開発してきました。
こうした天才の動きの本質が見えてきてわかることはこの本質は通常は見えない、気づかないということ。上記でトップアスリートの「感覚」と「認識」と指摘したことがこの本質です。
この本質が見えて来ない限りは有効なトレーニング方法は開発できません。
トレーニング団体の資格を取得
上記で触れた同業者が何をしているのか知りたいと受けたセミナーの中に、ある理学療法士が多く集まるスポーツトレーナーの団体の資格を取得する研修もありました。
ベーシック(1日)からアドバンス(1ユニット4日間の計3ユニット)で計13日だったと思います。
基本的にこうした団体や個人のレベルというのは全て受講してみない限りはわからないものだと個人的には考えているので資格取得まで進むことにしました。
そして認定試験を受けトレーナー資格(上から2つ目のA級)を取得することができました。この資格ではランク(S、A、B、C)があり、上から3つまでが実際の現場で指導できる(団体として仕事をまかされる)もので4つ目のCは今後実力をつけて試験を受けて上に上がるというシステムです。
ひとまず実力は認められたことになるのでこの団体の内容もある程度把握していると言ってよいでしょう。
習った動作トレーニングはまさに自分が開発してきた初期のものと同一の内容だったのです。
この団体では肩甲骨を四つん這いで立てる(立甲)を重視していました。
↓立甲(立位、四つ足歩行時)
研修中これに苦戦する受講生が多くいます。
こうしたトレーニングは開発済みだったので近くで苦戦している受講生に講師の邪魔にならないように目を盗んで、ちょっとしたアドバイスと補助テクニックを行うと全く立つ気配がなかった肩甲骨がその場で立ち始めてかなり感謝されました。
でも正直な話としてこの四つん這いでの立甲が「形」としてできたところで全くスポーツなどのパフォーマンスには影響しないこともこの時点でわかっていました。
「形」を超えたもっと深いレベルの立甲がありますが、そのレベルに達しない限りはトップレベルには全く通用しないのです。
上のリンク動画のように全身をゆるませた上で結果的に「肩甲骨は立つ」のです。トップアスリートは意図的に肩甲骨を立てる操作はしていません。立甲(肩甲骨を立てる)という用語も知らない人が多いでしょう。その人にとっては当たり前のことですから。
実際にこの団体では有名トップアスリートのトレーナーをしていましたが当時思うような結果は出ていませんでした。
「肩甲骨を立てる」ということができない人にとっては魅力的なものと目に写ります。ですが、それだけでは単なる宴会芸にしかすぎません。
これは肩甲骨だけでなくあらゆることに言えます。
体験無しではでは説明しにくい
探求が進み本質的なことがわかってくると明確に効果的なトレーニング方法が開発できます。ロルフィング®︎やWSでご紹介するとかなりの効果がでます。僕が数年かけてもなかなかできなかったことが、開発した動作トレーニングをご紹介するとその場でできるようになるケースが増えてきました(もちろん身につけるには継続する必要がありますが)。
熱心なクライアントさんで毎日その動作トレーニングをされる方は見違えるほどに変わって行きます。そういった効果の面では非常に向上しているのですが、問題は説明が難しくなってきたということ。
何も僕のことを知らない人への説明が非常に難しくなってきたのです。
⚫︎バランスボールに乗る
⚫︎ストレッチをする
⚫︎一本下駄に乗る
⚫︎体幹連動トレーニング:インターロック
に比べると今指導している動作トレーニングは地味です。一見「何の意味があるの?」と感じる方も多いと思います。ですがその意味がよくわからないことの中に本質があります。
ロルフィング®︎個人セッションでは施術と併用して、WSや練習会クラスでは対人ワークの体験を通してその違いを実感していただけます。
今後はさらに進めて言葉、体験がなくとも文章だけでも何とか伝えていけたらと考えています。
まとめ
ブログタイトルの『なぜ、流行しているトレーニングでは効果がでないのか?』の答えは、
「わかりやすさのイメージ戦略をしている」
「トレーナー自身が効果を出す方法に気づけていない」
といったことになります。
以前からブログなどで公言していますが、これまで蓄積してきた身体や動作の知見を子供たちの運動能力の向上の為に活かしていきたいと考えています。
1番効率的なのは小学校・中学校といった義務教育へ導入すること。
その為には多くの人々の賛同が必要になります。
そうした意味で「わかりやすさ」は必須です。
但し、世の中を見ると「わかりやすさ」とその「効果」は反比例のような関係があります。
この矛盾をどうにかして打開していくのが今後の課題です。