軸の正体シリーズ⓪:概要

はじめに

日本ではスポーツやダンス、武道では「軸」という表現を指導の中で使用されることがあります。

本来は「軸」と言う概念はその競技の上達を早める為に開発された指導用語の一種だと考えられますが、ほとんどの人は「軸」という概念がある故に上達できないという状況になっているように感じています。

つまり、「軸」という概念を使うことによって上達を逆に遅くしてしまっているということです。

最近、「軸」についての認識が深まってきました。

そしてわかるのは「軸」というのは1つではないということです。

「軸」というものはあくまでも概念の存在で身体のどこを見ても「軸」という構造体は存在しません。

あくまでも人間が身体運用を上達させる為に便宜的に作った概念です。その為、いくらでも「軸」というものは作ることができます。

一般的には身体の中心を貫く「軸」である中心軸のイメージがあると思いますが、自由な「軸」の考え方をすると10個でも、100個でも、1000個でも、、、、、「軸」は好きに作ることができるものです。

但し、「軸」をスポーツやダンス、武道などの身体運用の上達に活用する為にはその数は限定した方がよいと考えられます(多すぎても認識できない)。

あまりにも多すぎると逆に持て余してしまうからです。

「ロルフィング®︎のたちばな」では現在4つの「軸」を提唱しています。

この4つの「軸」によってある程度のスポーツ、ダンス、武道での各競技全体や個別の技術の特徴が明確に説明できるようになりました。

各個人では得意な軸タイプが存在します。また、各競技や個別の技術にもその動作に有効な軸のタイプが存在します。この両者が一致した場合に上達は劇的に早くなります。

逆に、一致していない(もしくは「軸」自体身につけていない)場合には、どれほど練習しても上達がなかなかできないということになります。

「軸」の概念を持っているからこそ上達できない状態が存在します。

それは自身の軸のタイプとその競技や技術が要求する軸タイプのミスマッチが起こった時です。

本記事では「ロルフィング®︎のたちばな」が提唱する4つの軸のタイプを簡単に説明したいと思います。

4つの軸のタイプ

4つの軸のタイプは下記の通りです。

①内側軸(ないそくじく):1軸:カカトから母指球
②中間内軸(ちゅうかんないじく):2軸:カカトから中指・人差し指の間
③中間外軸(ちゅうかんそとじく):3軸:カカトから中指・薬指の間
④外側軸(がいそくじく):4軸:カカトから小指球

▼画像のカカトから伸びている4つの矢印が各軸になります。

この各矢印上に体重を支える点(体重支持点)をもっていき、かつ全身が調和した状態(身体の統合状態)が「軸」が通った状態になります。

つまり、支持点と統合状態が組み合わさることで「軸」が機能するということです。

この「軸」が機能した時に身体の重心がその軸のタイプに応じて自由に動くようになります。

内側軸→外側軸に行くにしたがって重心移動は大きくなります。

日本の文化は基本的に「内側軸」です。それに対して西洋の文化は「外側軸」傾向にあります。

なぜ日本人の運動能力は低いと言われているかと言えばこの軸タイプのミスマッチにあると個人的に考えています。

内側軸の身体使いをしながら、全くタイプの異なる外側軸のスポーツを行なっている状況ということです。これでは上手くいくものも上手く行かなくなります。

これでは「軸」を意識しても上達しないどころか上達を鈍らせる原因です。

日本の一般的な「軸」というのは「内側軸」を起点として形成される身体の中央を通る中心軸を指すことが多いと思われます。

この中心軸の身体使いでは西洋由来のスポーツとは完全に相性が悪いのです。

でも「外側軸」という捉え方をすると相性が合うので途端に上達が早まります。

「脛骨で立つ」という偏った幻想

日本では「脛骨で立つ」という誤った考え方が1990年後半ぐらいだと思いますが広がってきています。

これは武術家が提唱した考え方です。

▼の膝から下の部位(下腿)の解剖図をご覧ください。内側の太い骨が脛骨、外側の細い骨が腓骨と言います。

『脛骨は腓骨の3倍ほどの太さがあり、体重を支えるには腓骨よりも脛骨の方が有効だ』

というわかりやすい説明で市民権を身体系の分野で密かに得ています。

ですがこの考え方はかなり偏った考え方だと最近思うようになりました。

日本の剣術や柔術などは「内側軸タイプ」になります。古武道の剣術の型をみると身体を半身にしたりといった、内側軸を活用したかなり特徴的な動きが見られます。

そして「脛骨で立つ」を提唱している人物はこの日本武道を中心に探求してきています。つまり「内側軸」の観点が強いということが推測できるわけです。

でもバスケットボールではサイド方向へ相手をドリブルで抜く際に腓骨側で体重を支える必要があります。

腓骨側で支えないと重心が移動できないので相手に簡単に反応されてしまうのです。
※人間は相手のスムーズな重心移動に反応がしにくい盲点をもっている。

実際に「外側軸」や「中間外軸」という外側の軸が自由に使えるようになるとこのことが身体で実感できるようになります。

腓骨を使うからこそ重心が左右に大きく移動させることができるのです。

各4つの軸をその場で疑似体験するテクニックがあるのですが、「外側軸」と「内側軸」を交互に切り替えて左右のフットワークをすると非常によくわかります。

「内側軸」で脛骨主体に動いた状態では全く動けたものではありません。

その点「外側軸」では腓骨を自然に使うことになりますがかなりスムーズな動きになります。

僕自身、大学時代から最近までの20年間、「脛骨で立つ」という幻想に囚われてきました。

そして結果的にこの幻想によって上達が遅くなっていたわけです。

腓骨が退化した動物

腓骨が退化して脛骨とくっついてしまった動物がいるそうです。

川崎悟司著『くらべる骨格動物図鑑』によれば、

⚫︎チーター
⚫︎馬

が腓骨が脛骨とくっついているとのことです。
※本書では馬では前腕の尺骨が橈骨にくっついていると説明されていますが、下腿の脛骨と腓骨も同じく腓骨が脛骨にくっついているとのことです。

構造的に骨が多いほど関節が増えるので身体は自由に動かせるようになる傾向にあります。

チーターや馬は直線を走るスピードや持久力がありますが、そのような動物で腓骨が体重の支持機能を果たさなくなるということは直線的に動く場合に限定すれば、腓骨の体重を支える機能は必要無いと言えるかもしれません。

人間も脛骨のみで体重を支持していた場合には腓骨は退化していてもよいのではないでしょうか。

上記の『くらべる骨格動物図鑑』ではマーゲイは腓骨の存在によって足首を180度回せることができるということです。

この足首の自由度が人間にも必要なので腓骨が退化せずに残っていると考えられます。

この腓骨がある為足首の自由度があるので人間はサッカーやバスケットボールなどのフットワークが必要なスポーツを楽しむことができます。

チーターは獲物を追う最中ですぐそばに別の獲物がいたとしても初めに狙いを定めた獲物のみを追い続けることは知られています。これは脛骨のみの身体の為に急激な方向転換ができないことがその要因ではないかと思われます。

「脛骨で立つ幻想」に囚われてしまうと腓骨側を使うということが悪という認識になり自身の可能性を非常に狭めてしまいます。

実際に、「脛骨で立つ」を広めた人物も腓骨側を使うことを否定しているわけではありません。

但し、あまりにも書籍にて脛骨を強調していること、脛骨・腓骨を適切に使った状態を読者やセミナー受講者に提示できなかったので「脛骨で立つ」という信仰が広まってしまったのです。

「軸」に引き続き、有益だと思われた知識それ自体が実は上達を阻んでいたという例ですね。

軸タイプの一致・不一致による不思議な現象

各軸のタイプには特徴があります。また、各競技や各技術に必要な軸タイプがあります。

この両者が一致した場合に不思議なことにその競技や技術ができてしまうのです。

こうした特徴を知るにはダンスがわかりやすいです。

例えば、ストリートダンスなら「外側軸」をセッティングしてから踊ると初心者で見よう見まねの状態でもそれっぽい動きになるのです。

逆に、ストリートダンスの動きを「内側軸」で行うと途端に動けなくなります。これが武道・武術で重視される「居着き」「居着いた状態」です。

タイプの異なる軸を使うとこのように人工的に「居着き」を作ることができます。何かに地面に縛られたような感覚になります。かなりショッキングな体験なのですがこうしたことが運動が苦手な方に起こっているのです。

逆にタイプが一致していればすんなりできてしまいます。

日本人は鼻緒の文化なので基本は「内側軸タイプ」です。

なのでストリートダンスを長年学んでいても「内側軸」で踊っているダンサーがかなり多くいます。

もちろん、こうしたダンサーは練習を積み重ねているのでストリートダンスを踊れはします。但し、黒人ダンサーとは何か根本的に異なるという印象になるのです。

その違いを産んでいるのが骨格や柔軟性の違いということもありますが一番の大きな要因は「軸タイプのミスマッチ」ということです。

毎週開催している「軸トレーニング研究会クラス」では先週面白い現象が起きました。

それは、ベリーダンス未経験でおそらく真剣にベリーダンスを見た経験はないだろうという参加者のお一人が、ベリーダンスの軸タイプ「中間内側」をセッティングして見よう見まねで、ベリーダンスの動きを行ったところベリーダンスのフィーリングがその場で見事でてしまったことです。

「中間内側」の特徴としては腰椎から下の部位の可動性が高まり、上半身とは分離した身体の使い方(アイソレーション)になることです。

ベリーダンスやフラダンスはまさにこのような分離した身体の使い方を要求します。

これがストリートダンスの「外側軸」を使うと上半身が動きすぎてしまいベリーダンスではなくなります。

どのジャンルのダンスでも学んだ経験のある方はわかると思いますが、習い始めでそのダンスのフィーリングを出すのはかなり難しいことです。特に成人した大の大人がその場で見よう見まねのみで無意識的にフィーリングがでるのはまずありえないことでしょう。

軸タイプも一致はこのようなことが起こります。

運動音痴は存在しない

軸タイプの一致という観点を認識すると運動が上手くできないということはかなりの割合で、行おうとしている動作が要求する軸タイプと自身の使える軸のタイプの不一致が原因です。

軸タイプが一致するならば、身体が自然に動くので快適な状態になります。あとは楽しんで練習するのみです。そうすることで経験値を自然に積み重ねることができます。

もちろん、経験値は絶対に必要です。

軸タイプを一致させたところでいきなり大魔王を倒せるわけではありません。

でも、練習量に比例して上達できるようになりますからかなり健全な世の中になると思われます。

終わりに

「軸の正体シリーズ」ということで今後は各軸の特徴をサッカーやダンスの具体的な動画を用いて説明していきたいと考えています。

軸トレーニング研究会クラスで各軸のタイプと一致しているサッカー選手やダンスのジャンルについて簡単に実技を交えて説明しましたが、その内容をこれから4回にわけて記事にしていきたいと思います。

2019年10月12日(土)、13日(日)開催の『軸トレーニングWS「重心コントロール」:基礎・応用』では、上記の4つの軸を身につけるトレーニングを行う予定です。

ご興味ありましたら▼のリンク先をご確認下さい。基礎と応用の両日参加は特別料金になります。