▼2022年6月12日(日)開催
はじめに
ロルフィングでは筋膜にアプローチすると言われており、筋膜にアプローチする施術を「筋膜リリース」と呼んだりします。
個人的には筋膜の機械受容器への刺激による脳神経系の反応を利用していると考えているので「筋膜神経学的リリース」と呼んでいます。
この筋膜リリースの手法はロルフィングなどの施術だけでなく合気道や柔道などの崩しにも使うことができます。
崩しに活用する筋膜をターゲットにした技法(筋膜リリース)を術理「筋膜ずらし」と呼んでいますが、今回はその術理「筋膜ずらし」のご紹介です。
筋膜とは?
筋膜は簡単に説明すると筋肉や身体全体を包んでいる膜組織になります。厳密に言えば存在する部位によって幾つかの種類があります。
「筋膜ずらし」ではそのような厳密な意味は必要はありません。
身体は、
皮膚→筋膜→筋肉
の層があるとだけ理解するだけで問題はありません。
▼の画像で言えば皮下脂肪も含めた浅筋膜のあたりをイメージしてください。
方法
「筋膜ずらし」のやり方は非常にシンプルです。
皮膚と筋肉の間にあるとされる筋膜の面をさかいにして皮膚をずらすだけです。
説明では簡単ですが、行うのはやや難しいかもしれません。
相手の触覚を乱す
通常、合気道などで相手を崩そうとする場合には筋肉まで力を入れてしまいがちです。
ですが、筋肉まで力を入れてしまうと相手の意志に関係なく無意識的な防御反応がでてしまいます。
この防御反応が出ることによって相手は崩れなくなります。
また、相手としては非常に力が入れて抵抗もしやすくなります。
それが筋膜の層で崩そうとすると相手は反応できなくなります。
これは相手の触覚の情報を乱すからだと考えれます。
一教の抑えに活用
▼の動画は合気道の一教と呼ばれる相手を抑える技法です。
この一教の抑えの際に2パターンで行ってみました(比較しやすいように「姿勢の力」などは使っていません)。
1回目:腕力で行う
2回目:筋膜ずらしを使う
「筋膜ずらし」を使うと相手の触覚が乱されるので、一瞬動き方がわからなくなります。
▲の動画で数秒間沈黙がありますがこれは一回目でできたはずの動きのやり方がわからなくなった為だと考えられます。
この動画を撮影した際は力を入れすぎてしまっていましたが、もっと軽く触れるようにした方がより相手を容易に抑えることができるようになります。
▼はもっと軽く触れて、ポジショニングも使った一教の抑えです。
どんどん相手がドツボにハマっていくのがみて取れます😂
▼「筋膜ずらし」は再現性がある技法なので女性でも簡単にできます。
あくまでも手首や上腕部の触覚を見出しているだけなので体幹で動かれてしまうとこれだけでは抑えられません。なのでポジショニングなどを使う必要があります。
但し、受け手の腕は居着いているのでこのように動いた場合には、別の抑えや関節技への移行はかなり容易になります。
一教自体が受け手をできるだけ無傷で抑えるという優しさを表現した技法なので、それでも対抗してくるなら「傷つける技を使うしかない」という状況ですね。
汎用性がある
「筋膜ずらし」は相手と接触していれば何にでも使える汎用性の非常に高い術理です。
▼はニ教に応用した動画です。
これは関節を決めていません(関節をそもそも決める技術がない😅)。
崩す方向(術理「ルート」)と「筋膜ずらし」を組み合わせたものです。
▼入り身投げも投る部位関係なく応用できます。
大学の合気道部に所属していた際にはこの入り身投げに憧れて練習した時もありますが、抵抗されると安全にかけることができませんでした。
当然、ゆっくりだったり、受け手の体格や筋力が大きいと難しくなります。
ですが、「筋膜ずらし」で顎や顔をずらすように行うと受け手は抵抗できずに素直にこちらに従ってくれます👍
筋膜リリースができているかの評価として
今回は「筋膜ずらし」の合気道への応用をご紹介していますが、実際には「筋膜ずらし」自体は筋膜リリースという施術技法の応用できしかありません。
施術での問題点はなんとでも演出で誤魔化しができる点です。
現在ではアナトミートレインの影響で「筋膜リリース」的な技法を施術に使う施術家が増えている印象がありますが、数日のセミナーを受けただけではなかなか「筋膜リリース」を行うことは難しいかもしれません。
そこで実際に適切に「筋膜リリース」ができているかの評価として合気道的な技で使って見ることをおすすめします。
合気道の技自体知らなくても見よう見まねで安全に気をつけることを条件にして、筋膜をずらして相手が崩れるかどうかを行ってみると良いと思います。
相手を崩すことができなかったらその「筋膜リリース」はまだまだ改良の余地があるかもしれません。
自然に「筋膜」を捉えるタッチになる
「ロルフィングのたちばな」でのセッションでの経験から言うと、適切な身体になると自然に「筋膜ずらし」のタッチになります。
クライアントさんで施術経験がなくても身体が適切に使えるようになると手順だけ説明するだけで見事に他者を崩せるようになってしまいます。
最もインパクトのあるクライアントさんが当時小学6年生の女の子です。
相撲を行っているので「筋膜ずらし」を核にしたセッションを行っていたのですが、最終的にはさする程度で体重が倍以上の大人を投げてしまいました。
ここで「さする程度」と表現しましたが、「筋膜ずらし」と言いながら最終的には筋膜ではなく皮膚の表面だけで相手に影響を与えることができるようになります。
というかむしろ軽い方が影響力が強力になります。
これは物理的な力で相手を崩すのではなく、相手の触覚などといった感覚を狂わすからです。
対抗策を考えることは必要
ちなみに、合気道としては対抗策を考える必要があります。
実際に自分が一教で抑えられた場合に現状を打開する方法を容易しておくことです。
▼これは「筋膜ずらし」で抑えられた状態から術理「鎖骨の抜き」を使って起き上がったものです。
・1回目:腕力(手をバタバタさせた場面)
・2回目:鎖骨の抜き
要は「筋膜ずらし」は筋肉などの触覚の情報を乱しているので、その乱された触覚を完全に無視して、骨を中心にして動くというやり方です。
但し、おそらくですが抑えてが「鎖骨の抜き」「肩甲骨の抜き」をさらに使っていたら大抵術理は相殺し合う傾向があるので、起き上がることは難しくなることが想定されます。
終わりに
大学の合気道部時代に「一教の抑え」が不思議でした。
どんなに工夫しても全力で暴れると起き上がれてしまうからです。
なぜこんな技法があるのだろうと謎だったのですが、ロルフィングのセッションを通して開発してきた技法を使うと疑問だった技が普通にできるようになるのが面白いですね。
▼植芝盛平合気道開祖の一教の抑え